The Garden of Earthly Delight① ~エデンの園~ [Paintings]
私が今までに目にした絵画の中でも、最も印象に残る絵のベスト10に間違いなく入る絵。
それはこれ、ヒエロニムス・ボスの『快楽の園』。
彼はダヴィンチとほぼ同時代の画家ですが、15世紀の人にしてこの発想、ぶっとびの才能です。
第一印象は、「・・・なんじゃこりゃ?」なのですが、見れば見るほど楽しくなってしまいます。
観音開きの三枚一組の絵ですが、扉を閉じてある状態では混沌とした天地創造の世界がまぁるく地味に描かれていますが、ひとたび開けば、奇想天外摩訶不思議な世界が広がります。
こんな宗教画は唯一無二。
まずは向かって左側の世界について見て行きましょうね。
ここはエデンの園。
真ん中のピンクの塔は「生命の樹」。
それは「生命の泉」の中に立っています。
右て後ろには黄色い塔。
らせんを描くありんこのような点々はトリのようです。
左手奥には岩山。
フィールドには架空の、あるいはリアルの、あるいはリアルの何かと何かのキメラ体のような動物たちがたくさんいます。生命の樹の左手にはゾウ、水を飲む馬たち。
右手にはキリンと、獲物を襲うライオン。
必ずしも平穏ではない、捕食者と被捕食者がいます。
画面ちゅう間の右手には岩がありますが、なんとなく人の横顔にも見えます。
トロンプルイユなのかな?
そして画面手前。
真ん中のピンクの衣の人は創造主です。
深い眠りから覚めたばかりの向かって左手に座っているアダムに、イヴの手首を取って彼女を紹介しているところです。
アダムの背後の木はドラゴンツリーだそうで、永遠の命の象徴。
あ、木の根元近くにはなにか小動物をとらえたにゃんこがいます。
アダムの下の白黒の鳥はかさあぎで、曖昧さを表します。
アダムは神様の言葉なんて聞いちゃいません。
目の前の美しい「女」、イヴをガン見しています。
イヴは創造主に手首をつかまれながら、ガン見してくるアダムの視線を避けています。
恥じらうような視線のそらし方ですが、一方で自分の美しさに自信があって、自分のことをアダムにガン見させるがままにしているのですって。
イヴの後ろにはウサギちゃん。繁殖の象徴ですって。
ここで一つのポイントは、生命の樹=創造主
ゾウ=アダム
キリン=イヴ
と対照することだそうです。
キリンは首が長いでしょう? 高慢を意味していて、ゾウは鼻が長い、鼻の下を伸ばしているアダムってことでしょうか(笑)? ちなみに、キインのわきにいるのはたぶんカンガルー。
画面右下には深い穴? 真っ黒い淵があって、これまた奇天烈なトリやアザラシもどきがいます。
全体的には大航海時代が始まってアフリカやら大西洋の島々やらの存在が知れ渡ってきたころなので、ボスが人づてに聞いたり本を読んだりしてエキゾティックな動物たちを描いたのでしょう。
エデンの園とはいっても、なにやら間もなく「初めての罪」がおきますよ・・・と言っているかのようなハラハラドキドキの雰囲気です。
当時のヨーロッパの人々は、水平線の向こう側は絶壁で、そこまで行ったら滝つぼのようなところにまっさかさまに落ちる~と本気で信じていたようですね。
まさに宗教観が科学の発展を悪魔の仕業として遅らせていた時代だったので・・・
もしやこれは、
そういう当時の社会に対する・・・皮肉?
・・・なぁんて、思ったりして。
次は真ん中の絵に続きます。
The Garden of Earthly Delight② ~快楽の園~ [Paintings]
さて、真ん中の絵です。イチゴ絵。
なぜか「イチゴ絵」と呼ばれるのは、実際にイチゴが描かれているためです。
こんなふうに↓
ここは人間たちの楽園です。
およそ500人の男女が快楽にふけっている様子を描いています。
あ、ハダカのひとがいっぱい~と、喜ぶのはお子ちゃま。
この絵のレトリックは大変に奥深いのです。
ちなみに、イチゴは肉欲と堕落のシンボルだそうです。
あちこちでイチゴをむしゃむしゃと一心不乱に食べる人々。
イチゴではないが、木の実(ベリー)を巨大なトリからもらおうとする人々。
みんなハダカですが、肉感的な感じではないので俗ないやらしさはありません。
でもお尻から花が出ていたり、スケキヨなみに泉に頭を突っ込んでY字開脚する人や、ホントに「なにやってるの?」と訊きたくなる人がいっぱいいます。
透明のカプセルみたいなものに入っていたり、ピンクのカプセルに乗っていたり、そりゃもう、半狂乱な状態ならば楽しそうな感じです。
フクロウも描かれていますが、これは盲目の象徴。タマゴみたいな者たちは世界の始まりを意味するのだそうです。また、よく見るとあちこちに異教徒や異人種も描かれています。だから宗教に関係なく、肉欲は世界共通だということでしょうか。
この絵の中には500人くらい人が描かれているそうですが、お腹の大きな女性は一人だけいるそうです。
男女が一対一で一緒にいるわけではないところも、なにか意味深です。
中央の泉のなかの人々は、それぞれ1,2,4,7,12人。
これは、年、昼夜、式、週、月の数だと言われます。
その周囲を巡る動物や人々の輪は、永遠に終わりのない時を表します。
よく見ると、同性愛者もちらほら。
当時の宗教ではタブーだったものです。
この絵の解釈については様々で、すべては解き明かされていないそうです。
すべてディコードできたら、どんなにかすっきりするでしょう?
真実は画家のみぞ知る?
次はジゴクの絵に続きます。
The Garden of Earthly Delight③ ~ジゴク~ [Paintings]
3枚目はジゴクです。
ボスのお得意は想像上の怪物を描き出すことだそうですが、ここにも奇怪な生き物がわんさか描かれています。
燃え上がる街、血の池地獄、楽器の拷問道具。
お尻に譜面を書かれた人もいます。
いたるところで悪魔が堕落した人間たちに責め苦を与えています。
目立つのは半身が空洞の大きな男。
腕と見て、関節は脚でしょうか? それらが木の幹のように見えるので「木男」と呼ばれているようです。
胴体の中は居酒屋? 振り返るカオは結構不気味。
頭の円盤の上にはピンクのバグパイプのような、心臓のようなモノ。
これは女性器の象徴と言われますが、それが男の頭の上にあるあたり、実に人間ぽいです(笑)
二つの、槍で突き刺された耳から出るナイフ。
戦車のように人々を踏み潰しています。
何でしょうねウワサとか言動に関係あるのでしょうね。
右下の青っぽいのは悪魔。
たぶん便器なのでしょう、穴の空いた椅子に座り、口から飲み込んだ人間を下部の穴の中にダイレクトに排出しています。これ、怖いというよりどこか皮肉めいてユーモラスです。暴食の罪を罰していると言われています。
悪魔の足元でお尻の鏡を見せられて気絶した女性は、虚飾の罪ですって。散らばったトランプや頭の上のサイコロは賭博の罪の象徴。
お金を排泄している人は、物欲の罪でしょうか。
右下の隅には、尼にふんしたブタに迫られている人。
この当時の教会に対する批判を風刺している、とも言われます。
見れば見るほどさまざまな意味が込められているようで、あれこれ考えてしまいます。
一人の人の想像力がこれらの世界を生み出したということに驚きです。
機会があれば大きい画像で見てみてくださいね。