もみじすれば・・・ [いろんなブンガク]
秋山の 黄葉(もみじ)を茂み 迷ひぬる
妹(いも)を求めむ 山道(やまぢ)知らずも
柿本人麻呂の歌、『万葉集』です。
タイトルは、「人麻呂が妻を亡くし、血の涙を流すほど悲しんで詠んだ歌」。
山の木々がもみじして、あまりにも茂っているものだから、
妻が迷ってしまっている
でも私は道を知らないから
彼女を探すことができないのだ
山の奥は、冥界に続く。
そんな言い伝えがあったそうです。
愛する妻が亡くなって、彼はまだ悲しみの淵深く立ち直ることができていません。
秋になり色づく木々の葉は、どこか怪しげな、恐ろしげな感じがして、
心がざわざわと波立つのです。
死者の魂を鎮めるための紅葉狩り。
いろづく錦繍の迷宮は、どこか狂気を感じさせます。
愛する妻はなくなったのではなく、もみじする山の中に迷い込んで出てこられないのだ。
だから彼女は、私のもとへ戻ってこられないのだ・・・
でも私にはどうすることもできない。
もみじする木々が、道を隠して阻むから。
もみじが、私たちの間を阻むから。
だから私は、紅葉と同じくらい赤い、血のような涙を流すばかり・・・
そう考える人麻呂の深い悲しみ、見えましたか?