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芥子のにおい~嫉妬にとり殺された二人の女~ [いろんなブンガク]

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光源氏17歳の夏。

乳母(めのと)のお見舞いに訪れた五条あたりの家の、垣根に夕顔の咲く瀟洒な家に、ふと心惹かれます。
和歌を送ると気の利いた返歌がきて、ゆかしくなりました。

そのころ、源氏には八歳年上の未亡人の恋人がいました。
さきの東宮の妃であった、六条の御息所(みやすどころ)。
御息所とは、東宮の子を産んだ妃の呼び名です。姫君が一人、いたからです。

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彼女は風流人で、何をしても完璧。ずいぶん年下の源氏に物足りなさを感じながらも、いとしくて手放せないのです。源氏のほうも、大人の女性に夢中でした。

でもそのうちに、完璧な美女にも息苦しさを覚えるのです。

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ちょうどそのころ、この町の簡素な家に住む、名乗りさえしない従順な女に、心惹かれたのです。
彼女はむかし、高貴な人の恋人であったけれど、正妻の嫉妬を恐れて姿を消し、ひっそりと女の子を産んだのでした。子供がいるとも思えない無邪気な、無垢な女です。

ある日、源氏はふといたずら心から彼女を連れだして廃墟の屋敷に行きます。
そこで、不思議なことが起こりました。

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夜中、源氏がうとうととまどろみ始めると、ふと、枕元に美しい女の気配を感じました。
女はこう言います。

「わたくしを訪ねてもこないで、こんなどうでもよい女を・・・うらめしいこと」

夢?
ハッと目が覚めると、明かりも消えていました。
魔よけのために刀を抜いて持ち、控えていた侍女に明かりを持って来いと命じますが、
侍女は怖がっています。手を叩いて人を呼ぼうとしますが、音が暗闇にこだまするばかりで、
誰も来ようとしません。

ぶるぶると震える侍女に女君を守るように言いつけて源氏は誰かを呼びに自ら立ち上がりました。

無人の廊下のあかりもすっかり消え失せていて、風が吹き抜けていくばかり。
遠くから番人の子が返事をしたので、魔よけの弦鳴らしをして明かりを持ってくるように言いつけます。

部屋に戻ると女君は眠っていて、そばでは侍女がうつぶせに。
女君の様子を見ると・・・・

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彼女はすでにこと切れていてたのです。

源氏は若かったために、取り乱してしまいました。
連れ出した女が死んでしまうなんて・・・・


遺体は、乳兄弟の惟光(これみつ)が処理しました。
それからしばらく源氏は寝込んでしまいました。

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この怪異は、六条の御息所の生霊が、嫉妬のあまりに夕顔をとり殺した、と言われます。
のちに六条の御息所は源氏の正妻の葵上の従者に路上で恥をかかされます。

葵上は妊婦でしたが、長男の夕霧を出産するときに、女の怨霊に撮り殺されるのです。

苦しむ葵上を抱き上げた源氏に、葵上は言います。
「あまりに苦しいので、しばらく緩めてください」・・・・・物の怪を調伏するための読経を緩めてほしいと
言うその声は、妻のものではなく、六条の御息所そのひとのものでした・・・・。

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意識が無くなる転寝の六条御息所が重々しい気持ちで目覚めると、芥子の香りが辺りに立ち込めているのです。これは、悪霊払いのために焚くものなのです。
自分が自分ではないような感覚を、この頃はとみに感じていました。
源氏の正妻の髪を引っ張って、思い切り打ちのめしている夢さえ見るのです。
芥子のにおいは、髪を洗っても、衣装をかえても消えないのです・・・・。



源氏を愛するあまりに生霊にまでなってしまった高貴な女。
彼女はやがて彼への執着よりも、自分のプライドを選ぶのです。

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年下の美しい恋人に別れを告げて、人目を避けて生きることを選ぶのです。
娘が伊勢の斎宮に決められたことを機に、伊勢に下る決心をします。

もしも彼女が源氏を思いつづけたら…・とんでもない浮気者ですから・・・ホントに生霊化して、
紫の上も明石の上も呪い殺されて、源氏物語はただのホラーになっていたかもしれません^^;;
・・・なんてネ・・・・。( ´艸`)



*********************************************************

・・・・それにしても、毎晩22時くらいからのこの重さはなんなのでしょう??

このところ毎晩重いです>_<。。。。。

どうにかならないのでしょうか????





不思議なウリ~橘 成季 『古今著聞集』より~ [いろんなブンガク]

平安時代、貴族の生活はすべてにわたって、陰陽道の占いや習慣に左右されていました。
「物忌み」もその一つです。

ある一定の期間、家に引きこもっておとなしくしていることです。
何日から何日の間は物忌みですと言われれば、身を慎んでひきこもるので、
「物忌みです」といえば仕事も休める・・・なんていい口実でしょう( ´艸`)

この、物忌みに関する不思議な話があります。

michinaga.jpg道長。

藤原道長が物忌みの最中に、解脱寺の僧正(ランクが相当高いお坊様)観修、陰陽師の安倍清明、
医師の丹波忠明、武士源義家が集まっておりました。

そこに、奈良からウリのプレゼントが来たのです。

a.uri.jpg清明。日本の代表的ソーサラーですね

ウリ・・・この時代はまくわうりが、甘さのある最高級品でした。
現代のメロンに慣れてしまった私たちにはそうでもない糖度ですが、昔は甘味があまり
ありませんでしたので・・・。

「でも、物忌みの最中に、もらい物などしてよいものかどうか?」
道長は心配して、清明に占わせました。

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すると清明は、ウリのひとつに毒気を感じると言います。

ひとつを手に取り、
「加持すれば毒気が現れるでしょう」と言います。
加持とは、密教のお払いの儀式です。

僧正がお経を唱えると、ウリがぴくりと動きました。

医師の忠明がそれを手に取り、回し眺めます。そして彼は、おもむろに2か所、ウリに針を突き立てました。
するとウリはびくともしないのです。

武士の義家に刀で二つに割らせてみれば、なんと、中には小さな蛇がとぐろを巻いてこちらを睨んでおります。
はたして・・・・

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忠明の刺した針は、蛇の左右の眼を射ぬいておりました。

義家は何の考えもなくウリを斬ったのですが、蛇の首を切りおとしていたのです。

作者の橘成季(たちばなのなりすえ)は学者ですが、各方面の最高ブレインが道長のもとに
集まっていたから、この殿はこんなに運が良いのだ、ということが言いたかったようです。

たしかに、時の最高権力者でなくてはおうちに呼び集めることは難しい、
各方面の最高の力を持つ人々ですね。






蛇性の婬(いん)~『雨月物語』より~ [いろんなブンガク]

和歌山県の三輪が崎に、豊雄という男が住んでおりました。
兄の太郎は網本を継ぎ、風雅三昧の弟の豊雄は、この兄の世話になっておりました。

ある日、豊雄はにわか雨に逢い、漁師小屋で雨宿りをいたしました。
その時、外で若い女の声がいたしました。

「しばらく軒をお貸しくださいませ」
見れば目の覚めるような、におい立つごとき美女でございます。
一人の少女を侍女として連れています。

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豊雄は一目で女に惹かれてしまいました。

ともに雨宿りの合間に、豊雄は女にどこから来たのかと尋ねました。

「わたくしは都のものではないのですが、今日が吉日と聞いて那智に参ったのでございます」
「それでは、この傘をお持ちください。どちらにお住まいですか?」

「新宮のあたりで真奈児(まなご)といえば、お分かりになりましょう。日も暮れてまいりますので、
傘をお借りいたします」

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女は小ぶりの合間に帰ってゆきました。

その夜、豊雄は夢に真奈児を見ました。
彼女は豊雄を待ち焦がれていたと言い、瀟洒な邸で歓待してくれました。
朝目覚めるといてもたってもいられずに、豊雄は家を飛び出しました。

新宮のあたりに至って、真奈児の家を訪ね歩きますが、誰も知らないと首を振ります。
途方に暮れていると、あの侍女の少女がどこからともなく現れました。

豊雄は喜んで少女についてゆきました。
「こちらでございますよ」
微笑む少女に導かれてきた邸は、夢の中と寸分たがわぬ豪邸です。

真奈児が出てきて、傘のお礼にと豊雄を歓待してくれました。
品のよい調度品、瀟洒なたたずまい。
どこか幻想的な内装で、出される酒宴の調度品も、上品なものばかり。


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ごちそうで豊雄をもてなしながら、真奈児は小野が身の上を語ります。

「わたくしは都の生まれでございますが、両親を早くに亡くしました。
この国の受領の妻となり下ってまいりましたが、夫は病で世を去りました。
寄る辺ない身の上に、傘のご厚情、まことにうれしく思われました。
これを機会にあなた様と縁を結べましたならばと思います」

豊雄が嫌というはずもなく、彼は真奈児と夫婦の契りを結びました。

「いつでもここに置か宵くださいませ。結納代わりにこれを差し上げましょう」
真奈児は豊雄に立派な飾り刀を差し出しました。
豊雄はその刀を受け取って、上機嫌で帰宅いたしました。

翌朝、豊雄を起こしに来た兄は、この飾り刀を見て不審に思います。
無駄遣いをしたと責める兄に、もらったものだと豊雄は弁解します。
話を聞かずに怒る兄の代わりに、兄嫁が話を聞きました。
豊雄は兄嫁に、真奈児と縁を結んだことを告白いたしました。

この話を聞いた兄は眉をしかめます。
「このあたりにそんな貴人が住んでいるとはつゆ聞き及ばぬ。それに新宮殿から
宝物がごっそりと消えたというぞ。まさかこの刀、そのうちのひとはきではあるまいな」

兄はその刀を持って新宮殿へ。
宮司は驚いてその刀こそなくなった宝物のひとつだというのです。

何か悪いものに魅入られたのではないか・・・

豊雄の案内で大勢が真奈児の家に押しかけると、そこは荒れ果てた廃墟でございました。
そして亡くなった宝物がそっくりそのまま、荒れた家の中に置かれていたのです。

しばらく、姉の嫁いだ大和に行ってほとぼりを冷ますように言われた豊雄は、その通りにいたしました。

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姉は大和の商人へとついでいたのでございますが、そこにある貴婦人がやってまいりました。
供の侍女が豊雄を見て微笑みます。
「あら、こんなところで…・」


豊雄は真っ青になりました。
「鬼がここまで追ってきたぞ・・」

あなた様を探してここまで来たのです・・・とさめざめと泣く真奈児に、豊雄はまたもや惹かれます。
そしてついに今度は、真奈児は姉夫婦までも取り込んで、まんまと豊雄と夫婦になるのです。

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やがて吉野に花見に行こうということになり、真奈児と侍女と豊雄は吉野へ赴きました。
満開の桜のなか、休憩していると、水簿らしい身なりの老人がやってまいりました。
すると真奈児と侍女はそっと背を向けます。

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老人は二人に気づき、豊雄を不審に眺めました。
「はて、なぜあの鬼めらに憑りつかれておいでになる? このままでは命もとられようぞ」

老人は助けを乞う豊雄に、真奈児の正体を明かしました。

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年を経た蛇。豊雄の美しさに見入って、憑りついたという・・・・。
豊雄は命からがら故郷へ逃げ帰りました。

話を聞いた父母は恐ろしく心配し、豊雄に人間の妻をめとらせようと考えました。
宮廷で采女(うねめ)として働いていた娘を妻に迎えることとなりました。
さて祝言の夜、妻はうらめしげに豊雄に言いました。

「古いえにしをすてて、このようなつまらない女を妻にするなど・・・うらめしい」

姿は妻だが、声はまさしく真奈児であります。

豊雄は布団をかぶり、がたがたと震えて夜を明かしました。
そこで悪霊払いをしてくれる鞍馬寺の僧を招いたが、僧は妖蛇の毒気にあてられて
怪死してしまいました。

最後の頼みの綱の道成寺の法海にお願いに参りましたところ、
「この袈裟で妖蛇を押さえつけよ」といわれたのです。

豊雄は真奈児を油断させ、その隙に袈裟をかぶせて力いっぱいに押し伏せました。
「ああ、苦しい、お前、どうしてこのようなことを・・・」
懇願する真奈児の声を聴かずに豊雄が押し伏せている間に、法海が呪文を唱えました。
すると三寸ばかりの白蛇が、袈裟の下から這い出てまいりました。

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ふすまの陰から、一寸ばかりの蛇も苦しげに這い出てまいりました。
法海はこれらを鉄の鉢に入れ持ち帰りました。

そして寺のお堂の前に埋めて、未来永劫封じ込めたのでございます。
これがおろち塚と呼ばれるものでございます。

さて、憑りつかれた新妻は、やがて病にかかって亡くなってしまいました。
豊雄は天寿をまっとうしたそうでございます。





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『春香伝(춘향전)』  [いろんなブンガク]

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韓国古典文学『春香伝』をお話ししましょう。

その前に基礎知識をちょっと。

キーセン…妓生。知性と美を兼ねそろえた技芸のことです。
ヤンバン…両班。朝鮮時代の貴族の呼び名です。
プサ…府使。地方長官です。
パンジャ…房子。地方官の役人の役職名です。
オサ…御使。王の命令で隠密に地方の不正を暴く役人。

【登場人物】

ソン・チュニャン(春香)…主人公の女の子。
イ・モンニョン(夢龍)…両班の息子。
ウォルメ(月梅)…チュニャンの母。

          (。-ω-。)――――――――――キリトリ線――――――――――(。-ω-。)

さぁ、準備はよいですね?

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昔、全羅道(チョルラド)の南原(ナモン)に、ウォルメという美しいキーセンがおりました。彼女はキーセンを引退して、ソンというヤンバンの妾になりました。これ以上はないという幸せの中、ただひとつ足りないのは、子ができないことでした。

彼女は神仏に祈りをささげ、ある晩吉夢を見たのです。
桃の花となしの花の枝を手にした天女が現れて、それから十月後、かわいらしい女の子を産みました。

春に生まれたこの子はチュニャンと名付けられました。
春の香り、という意味です。
朝鮮時代、父親が貴族であっても、母がキーセンであれば、生まれた子もキーセンです。
でもウォルメは、チュニャンをヤンバンの令嬢にも劣らぬように育てました。
チュンニャンも利発な子で、何をやらせても何を教えても、すべてをうまくこなしました。

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チュニャンが16の時、新しいプサが都から赴任してきました。
プサには16になるモンニョンという息子がいて、彼は鞦韆(ブランコ)に乗るチュニャンに一目ぼれしました。お供のパンジャに呼びに行かせますが、「呼ばれたら行くとでも思いますか」とチュニャンは怒ります。花のような美少女の外
見に興味を持ったモンニョンは、チュニャンの利発さにも心惹かれます。

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敬意を払い、改めて会うと、ますます惚れ込んでしまいました。
チュニャンもモンニョンに一目ぼれです。

でも…
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キーセンの娘はキーセンになる運命なので、ヤンバンの正妻にはなれないのです。
それでも100年の縁を誓うふたり。
結婚の約束をして一年後、モンニョンの父が都に呼び戻されて出世することになりました。
モンニョンも都に帰ることになり、二人は再会を誓い離れ離れになります。

syoukoumizunurumu.jpgこれは上村松篁『水ぬるむ』


三年がたちました。
また新しいプサが赴任してきますが、今度のプサは悪人でした。ナモンじゅうのキーセンを集め、美女と名高いチュニャンを無理やり妾にしようとします。

拒んだチュニャンは拷問を受け、牢に放り込まれました。
ナモン中の人々は、新しいプサのこの私的で不合理な仕打ちに眉をひそめました。
将来を誓い合った夫となるべき人がいるので、二夫にまみえるくらいなら死にますと、チュニャンは貞操を守るために死を覚悟します。

1-34.jpg罪人はこのように首枷をはめられました。
そのころ、都でチュニャンを恋しがってめそめそしていたモンニョンは、はっと気が付きます。いつまでもめそめそしてはいられない。早く出世して、世に認められる男になり、チュニャンを迎えに行こう、と。

彼は一念発起、毎日勉強に明け暮れます。
そしてついに、科挙に主席合格を果たし、王直々に、全羅道のオサに命じられたのです。
1.24.jpgアメンオサ。正義の使者~^^

オサは、身分を隠して地方をまわり不正を暴いたり、孝厚い人物を見つけたりして、王に報告する特殊任務を担った役人です。
1.23.jpgマペ。オサの必須アイテム、水戸黄門の印籠のようなものです。

モンニョンは貧しい格好をして身分を隠し、チュンニャンのいるナモンに向かいます。

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その頃チュニャンは牢の中で死を覚悟していました。
きっとモンニョンは、都で自分のことなどすっかり忘れてしまったのだ、それでも私は新しいプサの妾になどなるものですか、と思いながら。

プサの誕生日が華やかに祝われる日。
いうことを聞こうとしないチュニャンを、プサはその日の最後に処刑しようとします。

嘆き悲しむ母のウォルメ。

そこに没落した貧乏人に身をやつしたモンニョンがやってきます。
身なりの貧しいモンヨンを見て、ますます悲しむウォルメ。
そんなウォルメに、牢の中から「私が死んだら、私の着物をすべて売って、モンニョンに着物を買ってあげてください」とお願するけなげなチュンニャン。
すぐにでもチュニャンを助け出したいけれど、モンニョンは王の密命を受けているので、まだ身分を明かせません。

翌日。プサの誕生日の宴会が催されました。
みすぼらしい身なりで現れて、食べ物を恵んでくれというモンニョン。
親切にしてくれたのはたった一人の役人だけ。

食べ物のお礼に詩を作り、宴席を去るモンニョン。
親切にした役人だけが、モンニョンの作った詩の意味を理解して、宴会の場を逃げ去りました。
そしてすぐに太鼓が鳴り響き、オサの部下たちが宴席に押し寄せました。

役人たちは慌てふためきます。
オサは高座に座り、プサを捕えさせ、代わりに無実の罪で牢に入れられた人々を解放させました。
もちろん、チュニャンも。

大きな首枷をはめられたチュニャンは、オサの御前に連れてこられます。
まだそれが愛するモンニョンとは気づいていません。

「そのほう、キーセンの身分で役人の命令に背き、死をもってして当然の騒動を引き起こしたが、私の側仕えをするならば、命ばかりは助けてやろう」

チュニャンはあきれ返ります。
「都から下ってくる役人は皆同じですね。もうよろしいですから、わたくしを殺してください」

するとオサは自分の指輪を外し、チュニャンに渡すよう部下に命じます。
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それは3年前に、チュニャンがモンニョンに別れ際に渡した約束の印なのです。
顔を上げよとオサに言われ、高座のオサを見たチュニャンはびっくりです。
そして目には涙があふれました。

この話を聞いた王様は、チュニャンに貞烈夫人とう称号を与えました。
彼女はモンニョンとともに都へ上がり、右大臣にまで出世したモンニョンとともに、子供たちを育てて老いて死ぬまで睦まじく暮らしましたとさ。


この古典をもじって、いくつかのドラマや映画が作られているようです。
『快傑春香』は、現代を舞台にしたラブコメでその中の一つ。登場人物も名前が同じです。
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面白いので、興味があれば見てみてください♪


快傑春香 DVD-BOX

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虫愛ずる姫君 [いろんなブンガク]

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蝶を愛でる姫君のお隣には、虫を愛でる姫君が住んでおられます。

この姫君はほかの姫君とは変わっていて、

「蝶よ花よともてはやすのは、浅はかだわ。物事は本質を追及してこそ、奥が深いのよ」と言います。

だからおよそ世間に姫君がたが悲鳴を上げそうな虫たちを虫かごに入れ、コレクションしています。
毛虫を掌に乗せ、かわいがって飽きることなく眺めておられます。

musi.emusuさん.jpgemuzuさんからお借りしました^^

侍女たちは恐ろしがるので、少年たちに虫を取らせて子分にしていらっしゃいます。

「人間はありのままがいいのよ」と、お歯黒をつけず、眉も抜かずに自然のままです。
お化粧さえもいたしません。
虫に悲鳴を上げて逃げ回る侍女たちをきっと睨みつけ、下品な騒ぎはおやめなさい!」と、お叱りになります。

ご両親は困ったことだとお思いになるけれど、
何かにつけて理屈が通ったお答えをなさるので、どうしようもありません。

美しいものを愛でるならともかく、毛虫を愛でていると世間のうわさにのぼったらみっともないでしょう、
とたしなめられると、

「噂なんてどうでもいいのよ。すべての現象を理解して、その流転のありさまを確認するからこそ、
ひとつひとつの事象は意味を持つのよ。そんなこともわからないなんて、幼稚でいらっしゃるわ。
毛虫が蝶になるんじゃないの」などという始末。

「人々が着る絹だって、蝶になる前の蚕が紡ぎだすのよ」と、仕切りカーテン越しにご両親に屁理屈を述べておられます。

mushi.アッキーさん.jpgアッキーさんよりお借りしました^^

虫嫌いの侍女たちは不平たらたら。姫君はお構いなく趣味に生きます。
虫を取らせる少年たちと「でーんでんむーしむしー…」と大声で歌います。
少年たちにはけらお、いなごまろなど、虫の呼び名をお付けになって。

やがてこの姫のうわさを聞きつけた物好きなある若君が、姫君を盗み見に来ます。
するとどうでしょう、本当に変わった格好の姫君ですが、醜くはありません。
それどころか、そこはかとない気品が漂ってさえいるのです。

「おしいなぁ。あれで化粧して世間の姫君並みに調えたら、美しい姫君だろうに」と、若君はつぶやきます。
それにしても、その見られていた時に姫君がお召しになっていた「コオロギ模様の着物」に白い袴姿って…。

結局、若君は惜しいな、残念なと笑って帰っておしまいになりましたが、さて、この物語はこの後も続くようですが、散逸しています。

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面白いのは、
姫君がありのままの姿やモノの本質を好むこと。
目先の美しさではなく、本来の姿にも美を見出そうとする点です。

世間の人が美しいと思うものは、表面だけの美しさ。
私は本質のみを追及するの、という個性的な考え方をする姫君が、この時代にもいたんですね(このお話はフィクションですが)。

これは風変りにも思えますが、でもこんな物の本質が見える人は現代でも結構たくさんいますよね。
お店で「これは流行ってるんですよ」とか「人気があるんですよ」と言われると、
なんか買う気が失せてしまう、というような。
似合っているから、好きだからほしいのか、ただ単に世間ではやっているからほしいのか。

mushi4.jpgこれも昔は「ムシ」の一種…

そして姫君に興味を持つ若君。
この人もまた、実は、物事の本質を見極める人なのです。
世間でいう変わり者の姫君を、「おしいなぁ、普通にしたら美しいのに」と思い、
「あなたみたいな変わり者に見合う男は、自分以外には他にはいないよ」と歌を送ります。

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姫君自身、まだ「けむし」なのですよ。
やがて成長して考えが変われば、美しい蝶になる可能性を秘めているのです。
そのことに、若君は気付いているのです。

きっとこの物語の続きがあるとすれば、この二人は似た者夫婦になって、
一緒に虫でも捕まえて幸せに暮らしたのかもしれません。


遊び人と結婚しちゃったまじめ美女の思いつめた日記 [いろんなブンガク]

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高校生のころ、一番嫌いだった古文の授業、それは『蜻蛉日記』の授業でした。

だって、暗いし恨みがましいし、女子高生にとって興味を引く内容とは言い難かったんですもの。

たぶん、日常の愚痴が書かれている中に、、孤独な人間が次第に自分の内面的な部分に注目してくる・・・・という過程を、高校生にも学ばせましょう、という意図なのかもしれませんが。

藤原の倫寧(ともやす)さんの娘さんたちの中の一人、うーん、当時の女性は名前がわかっていることが少ないので、仮に彼女を倫子(ともこ)さん、としましょうか。

倫子さんはとても文才があり、歌を作ることがとてもお上手です。
だからのちに三十六歌仙(歌詠みベスト36)のひとりに選ばれます。
そのうえ、「本朝三美人」の一人に選ばれるくらいの美人さん。

つまり、才色兼備なんですね。

19歳の時、ある貴公子にプロポーズされます。
摂関家のおぼっちゃま、兼家が、彼女に目を付けたのです。

・・・とはいっても14歳差。

昔の人の平均寿命は短いので、30代半ば過ぎはりっぱな壮年ですw
でも19歳もちょっといき遅れの部類なのです。

兼家の強引なプロポーズを受けて彼女は結婚を承諾します。

この兼家という男、藤原摂関家の立役者で、子供たちは全員出世して、自身は花山帝を陰謀によって退位させました。今でいえばノリに乗ってる青年実業家か策略的で野心的な政治家といったところです。

そんな人物は大抵、自分に自信があって性格は豪快で何に対しても貪欲で強引です。

彼には時姫という正妻がいて、すでに太郎ちゃん(=長男はすべて太郎ちゃん、成人後に名前が付けられます)もうまれたばかり。倫子さんは乗り気ではありません。でも強引に押し切られて側室になることに。

20歳の時、息子が生まれます。これがのちの道綱くんです。

子供が生まれたとたんに、兼家は冷たくなります。
そしてあろうことか、かれはほかの女に興味を持ち始めるのです。

相手は「町小路の女」。
きっと倫子さんよりは身分卑しかろう女性です。
倫子さんのプライドは痛く傷つきます。

時姫は正妻だから、しかたがない。
でも、その女は何なの?
私に、何が足りないというの?
かわいい息子まで生んだのに。

・・・・倫子さんはわかっていなかったのです。
彼女は、ハンターと結婚してしまったのです。

翌年はこの町小路の女も、男児を出産したあとは、兼家の興味を失います。

ほらね・・・・兼家は、ハンターなのですよ。

近江(滋賀県)のほうにまで愛人を作り、正妻と倫子さんのほかに倫子さんが知るだけでも三人の愛人を持ちました。たぶん兼家には悪気がないのです。悪気がないから厄介なのです。

もしも倫子さんが和泉式部のように恋愛慣れしていて多情な女性であれば、自分も美貌を無駄にせずに恋人を作って楽しく暮らすこともできたかもしれません。

でも彼女はまじめすぎたので、それもできず、ただただ多情で冷たい夫の仕打ちを恨み、道綱くんの成長だけを人生の楽しみに生きていくのです。

まじめすぎる彼女だから、兼家もあまり寄り付かず、たまに思い出して寄っても嫌味を言われたりとげとげしい態度をとられるために、余計に足が遠のきます。かわいらしいスネかたなんて知らないし、知っていてもプライドがじゃましてできないのですよ。

「釣った魚に餌はやらない」男と結婚→男は「所有物」にした女には興味が薄れる→あまり顔を見せなくなる→ほかの女に新たに興味を持ち始める→それを聞いて嫉妬に身を焦がす→やりきれないほどに嘆き悲しむ→自己分析に入る(私の何がいけないというの?)→そうしている間にハンターが「釣り上げた獲物」を思い出してご機嫌伺いに来る→久しぶりに会えてうれしい感情よりも、長い間放置された悲しみと相手に対する憎しみがまさって嫌味攻撃→ハンターにとってそんな状況は面倒くさい→そして余計に来なくなる

という悪循環。

高校生のころには、「なんて恨みがましいのかな、ウザイなぁ」としか思わなかったけれど、年を取ってくると(笑)共感できてしまうこともちらほら。

最悪です。
ハンターと結婚してはいけませんw


  嘆きつつ 独り寝る夜の明くる間は いかに久しきものとかは知る


(自分の不幸な運命を嘆きながら、夫も隣にいない独りで寝る夜の長さは、どんなに長いものであるのか、身に染みて知っているんです)

なんて・・・

「私をかまって、私を見て、私だけを愛して」という、切実な気持ちがかなわないことの悲しさ、哀れさ。

離婚して清少納言や紫式部のようにキャリアウーマンになる道もあったけれど、そうするには彼女はちょっとコンサバすぎました。

兼家の愛情を望めば望むほど、兼家は遠のいていくのです。
こんな男と結婚してはいけないのです。
あるいは、彼女はもっと違った性格の男と結婚すべきだったのです。

でも、それが運命といえば運命であって、当時としてはここまであけすけに心情を日記につづった女性はいなかったために、ブンガクには大きく貢献したと言えるでしょう・・・・。

夫がいるのに孤独で仕方がないというのは、シングルでいるよりもかわいそうな気がします。
だから息子に愛情を注いで、息子の恋文の代筆までしてしまうのです。

根暗な点では共感できますが(笑)、ハンターとは結婚してはいけませんよ~。




蜻蛉日記 (角川ソフィア文庫―ビギナーズ・クラシックス)

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