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蛇性の婬(いん)~『雨月物語』より~ [いろんなブンガク]

和歌山県の三輪が崎に、豊雄という男が住んでおりました。
兄の太郎は網本を継ぎ、風雅三昧の弟の豊雄は、この兄の世話になっておりました。

ある日、豊雄はにわか雨に逢い、漁師小屋で雨宿りをいたしました。
その時、外で若い女の声がいたしました。

「しばらく軒をお貸しくださいませ」
見れば目の覚めるような、におい立つごとき美女でございます。
一人の少女を侍女として連れています。

Shinsui.jpg

豊雄は一目で女に惹かれてしまいました。

ともに雨宿りの合間に、豊雄は女にどこから来たのかと尋ねました。

「わたくしは都のものではないのですが、今日が吉日と聞いて那智に参ったのでございます」
「それでは、この傘をお持ちください。どちらにお住まいですか?」

「新宮のあたりで真奈児(まなご)といえば、お分かりになりましょう。日も暮れてまいりますので、
傘をお借りいたします」

kaburaki4.jpg

女は小ぶりの合間に帰ってゆきました。

その夜、豊雄は夢に真奈児を見ました。
彼女は豊雄を待ち焦がれていたと言い、瀟洒な邸で歓待してくれました。
朝目覚めるといてもたってもいられずに、豊雄は家を飛び出しました。

新宮のあたりに至って、真奈児の家を訪ね歩きますが、誰も知らないと首を振ります。
途方に暮れていると、あの侍女の少女がどこからともなく現れました。

豊雄は喜んで少女についてゆきました。
「こちらでございますよ」
微笑む少女に導かれてきた邸は、夢の中と寸分たがわぬ豪邸です。

真奈児が出てきて、傘のお礼にと豊雄を歓待してくれました。
品のよい調度品、瀟洒なたたずまい。
どこか幻想的な内装で、出される酒宴の調度品も、上品なものばかり。


蛇性 (2).jpg

ごちそうで豊雄をもてなしながら、真奈児は小野が身の上を語ります。

「わたくしは都の生まれでございますが、両親を早くに亡くしました。
この国の受領の妻となり下ってまいりましたが、夫は病で世を去りました。
寄る辺ない身の上に、傘のご厚情、まことにうれしく思われました。
これを機会にあなた様と縁を結べましたならばと思います」

豊雄が嫌というはずもなく、彼は真奈児と夫婦の契りを結びました。

「いつでもここに置か宵くださいませ。結納代わりにこれを差し上げましょう」
真奈児は豊雄に立派な飾り刀を差し出しました。
豊雄はその刀を受け取って、上機嫌で帰宅いたしました。

翌朝、豊雄を起こしに来た兄は、この飾り刀を見て不審に思います。
無駄遣いをしたと責める兄に、もらったものだと豊雄は弁解します。
話を聞かずに怒る兄の代わりに、兄嫁が話を聞きました。
豊雄は兄嫁に、真奈児と縁を結んだことを告白いたしました。

この話を聞いた兄は眉をしかめます。
「このあたりにそんな貴人が住んでいるとはつゆ聞き及ばぬ。それに新宮殿から
宝物がごっそりと消えたというぞ。まさかこの刀、そのうちのひとはきではあるまいな」

兄はその刀を持って新宮殿へ。
宮司は驚いてその刀こそなくなった宝物のひとつだというのです。

何か悪いものに魅入られたのではないか・・・

豊雄の案内で大勢が真奈児の家に押しかけると、そこは荒れ果てた廃墟でございました。
そして亡くなった宝物がそっくりそのまま、荒れた家の中に置かれていたのです。

しばらく、姉の嫁いだ大和に行ってほとぼりを冷ますように言われた豊雄は、その通りにいたしました。

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姉は大和の商人へとついでいたのでございますが、そこにある貴婦人がやってまいりました。
供の侍女が豊雄を見て微笑みます。
「あら、こんなところで…・」


豊雄は真っ青になりました。
「鬼がここまで追ってきたぞ・・」

あなた様を探してここまで来たのです・・・とさめざめと泣く真奈児に、豊雄はまたもや惹かれます。
そしてついに今度は、真奈児は姉夫婦までも取り込んで、まんまと豊雄と夫婦になるのです。

CIMG1864.JPG

やがて吉野に花見に行こうということになり、真奈児と侍女と豊雄は吉野へ赴きました。
満開の桜のなか、休憩していると、水簿らしい身なりの老人がやってまいりました。
すると真奈児と侍女はそっと背を向けます。

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老人は二人に気づき、豊雄を不審に眺めました。
「はて、なぜあの鬼めらに憑りつかれておいでになる? このままでは命もとられようぞ」

老人は助けを乞う豊雄に、真奈児の正体を明かしました。

CIMG1863.JPG

年を経た蛇。豊雄の美しさに見入って、憑りついたという・・・・。
豊雄は命からがら故郷へ逃げ帰りました。

話を聞いた父母は恐ろしく心配し、豊雄に人間の妻をめとらせようと考えました。
宮廷で采女(うねめ)として働いていた娘を妻に迎えることとなりました。
さて祝言の夜、妻はうらめしげに豊雄に言いました。

「古いえにしをすてて、このようなつまらない女を妻にするなど・・・うらめしい」

姿は妻だが、声はまさしく真奈児であります。

豊雄は布団をかぶり、がたがたと震えて夜を明かしました。
そこで悪霊払いをしてくれる鞍馬寺の僧を招いたが、僧は妖蛇の毒気にあてられて
怪死してしまいました。

最後の頼みの綱の道成寺の法海にお願いに参りましたところ、
「この袈裟で妖蛇を押さえつけよ」といわれたのです。

豊雄は真奈児を油断させ、その隙に袈裟をかぶせて力いっぱいに押し伏せました。
「ああ、苦しい、お前、どうしてこのようなことを・・・」
懇願する真奈児の声を聴かずに豊雄が押し伏せている間に、法海が呪文を唱えました。
すると三寸ばかりの白蛇が、袈裟の下から這い出てまいりました。

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ふすまの陰から、一寸ばかりの蛇も苦しげに這い出てまいりました。
法海はこれらを鉄の鉢に入れ持ち帰りました。

そして寺のお堂の前に埋めて、未来永劫封じ込めたのでございます。
これがおろち塚と呼ばれるものでございます。

さて、憑りつかれた新妻は、やがて病にかかって亡くなってしまいました。
豊雄は天寿をまっとうしたそうでございます。





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アヨアン・イゴカー

高校生の頃、そして大学生時代、『白蛇伝』が大好きでした。当時、『白蛇伝』の物語が手に入らなかったので『雨月物語』を読みました。『白蛇伝』に準拠している物語だというので。
今は、かなりの物がすぐに検索できて、本当に便利になりました。
by アヨアン・イゴカー (2011-08-07 01:21) 

qooo

雨月物語、好きですね〜。
また、読んでみたいとしみじみ思いました♪
ぞ〜っと、しますねえ。。。

by qooo (2011-08-07 06:10) 

sig

こんにちは。
上のアヨアン・イゴカーさんもお書きのように、中国の「白蛇伝」が原典のようですね。怪異な物語は私も好きで、東映動画「白蛇伝」についてはブログの記事にしました。
by sig (2011-08-07 09:32) 

sora

こんにちは。

子供の頃、道成寺で安珍清姫の話を聞いて、とても怖い思いをしました。
大人になってみても、やっぱり怖い。でも、恋は盲目になるんですね。
by sora (2011-08-07 13:29) 

たもちゃん

こんばんは、今日も素晴らしい。
美人画をはじめとする絵画に魅了させられました。
by たもちゃん (2011-08-07 18:25) 

扶侶夢

一種の縁起なんですけど、いつからか私は蛇に不思議なパワーを感じるようになって、白蛇の皮を財布などの身の回りに添えています。一枚の皮などは、もう30年以上にもなります。
by 扶侶夢 (2011-08-07 19:18) 

POP

こんばんは。
上田秋成(だったですね(笑))ですね。
学生の頃に読みました。
by POP (2011-08-07 19:24) 

MURAMASA-X6

私も学生の頃に雨月物語を読みましたが、それまでに読んだ
どんな本よりも怖かったのを覚えています(>_<)
by MURAMASA-X6 (2011-08-08 08:01) 

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