『晩秋』 ~Late Autumn~ [Movies 2 C]
この映画は、主人公が中国女優と韓国俳優ですが、舞台はアメリカのシアトル、そして
セリフは全編が英語です。
1966年、1981年と2度映画化されたものを、2010年に三度目のリメイクをされた作品です。
前作までは韓国が舞台でしたが、この2010年版は国際版に仕上げられました。
『晩秋』ながら、1月の初めに撮影が開始されたとか。
これが真冬の極寒に見えないのは、役者の力量でしょうか。
中国系アメリカ人の囚人のアンナは、母の死の知らせを受け取ります。
模範囚だった彼女は3日間の外出許可をもらいましたが、追跡装置と携帯電話は常に身につけて
おくようにと言い聞かせられます。
7年前、彼女は幼馴染の男性と駆け落ちしようとしていたことが、普段から彼女に暴力をふるっていた
夫にばれて、ひどい暴行を受けました。
そしてはずみで夫を殺してしまったのです。
刑務所からシアトルまでの長距離バスに乗り込むと、同じバスに駆け込んできたアジア系の男が。
彼は何かから逃亡しているようでした。
お金を持っていなかったため、同じアジア系のアンナをみつけ、ずうずうしくも借金を申し込みます。
30ドルを貸すと、返すまでの担保だと、強引に腕時計を預けてくるのです。
この男は韓国人のエスコートサービス。
アメリカの韓国系の女性たちから稼いでいたのです。
実はクライアントの女性の夫に追われ、逃げるためにバスに飛び乗ったのです。
彼は電話番号を彼女に渡しますが、彼女はその紙切れを捨ててしまいます。
久しぶりの自由。家族との再会、ショッピングにおしゃれ、そして殺人の元凶となった幼馴染との
再会・・・・
しかし刑務所からの確認の電話が彼女を現実へ引き戻すのです。
そんなとき、彼女は街の中でバスの中の男に再会します。
”Do you want me? ”
それぞれの事情や状況は違っても、刹那的に生きている二人の人間の人生が、ここで出会います。
でも二人は、ただ街の中を一緒に歩くのです。
シアトルの街は寒々しくて無機質です。
閉園中の遊園地のゴーカートのそばで口論する白人のカップルの会話を想像して演じる二人。
彼女は自分の身の上を、淡々と、他人事のように彼に話します。
このストーリーには、なんの未来も将来性もないのです。
ただもう、その一瞬を描いているようです。
長い人生、思い通りに生きられないことが実際には現実です。
アンナが母親の遺体に語りかけるシーンは印象的です。
お互いの事情を知ったうえで、ふたりはアンナが刑期を終えた時に再会を誓います。
でも彼は、追っ手に捕まってしまうのです。
最後のキスシーンも印象的です。
長いキスには、生きることの難しさ、生への執着が現れているようです。
人生は長いようで、逆に言えばほんの束の間です。
どう生きるかによって、喜びの多い人生になるのか、苦しみの多い人生になるのかが徐々に
見えてきます。
未来のない二人の、一瞬の邂逅。
秀作だと思います。
人生なんて束の間の夢に過ぎず、
一人の存在は70億分の1でしかなくて、
宇宙の星々と比べたら余りにも小さいと考えると、
どんなに道徳的に生きてみたって無意味なんじゃないかと、
そんな刹那的な享楽主義に走りたくなってしまう自分がいます。
by Hirosuke (2012-10-21 04:38)
ステキなお話ですねぇ。うっとり。
わたくしもnikiさまと同じに
一瞬というか束の間の出来事でも
その人の人生を変え、そして支配してしまうような出来事って
あると思うんですね。
そういう一瞬にであうために人間って生きているのかと
思うほど、です。
by sadafusa (2012-10-21 09:42)
わたしたちはずっと遠くから来てずっと先まで行くんだ...と若い頃は
思っていましたが(...確かそういう台詞があった、どこかに)、
最近は、つい昨日から来てほんの明日まで行くに過ぎない、と実感します。
40年近く前の学生生活も、ほんの昨日のことのように思えますし。
by ナツパパ (2012-10-21 11:30)