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花恋い。 [Livre de fleurs]

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桜児(さくらご)の伝説をご存知ですか?

昔、桜児という名の美しい娘がいました。
この娘、その名のごとくに可憐でだれもがそばに置いて愛でたいと思わずにはいられない美しさ。

この娘に二人の熱烈な求婚者が現れます。
彼女はどちらも選べません。

ひとりを選べば、もう一方は死ぬというのです。
だからと言って二人とも夫にするわけにはいきません。

彼女は林の中に入り、さくらの木で首をくくって死んでしまいました。

悲しいお話です。

さくらの花は、散るからこそ人々の心をかき乱し、深く愛されるのです。
たとえば北野恒富の描く舞妓のような、みずみずしいなまめかしさを感じる花です。

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与謝野晶子は桜という文字を法名に持っています。

清水へ祇園をよぎる桜月夜 今宵逢うひと みな美しき


さすが浪漫派、うつくしい歌です。
ただ単に夜桜の幻想的な美しさに感動しただけではなくて、心が浮き立っているような、恋している
ような、そんな軽やかで幸せそうな印象を持ちます。

さくらのはんなりと色づくうす紅色は、夜の闇にまるでぼんやりと発光しているかのように蒼白くさえ
見えることがあります。

ライトアップされている様子もきれいだけれど・・・・・

やはりなんといっても、月の光に照らし出されたさくらの美しさと言ったら、表現のしようもないくらい
美しいです。

古今、どれだけ多くの文化人たちの心をかき乱し、すばらしい作品を生んできたことでしょう。

私の最高の桜は、学生時代の京都で。
バイトでかなり遅くなった月夜の晩に、マウンテンバイクで帰宅途中。

普段ならば危険な裏路地に、つい入ってしまいました。
どうしてか?
昼間は安全な道ですが、そこにはさくらの老木が数本、狭い道の両脇に植えられていて、ちょっとした
短いさくらのトンネルができていたのです。

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でも昼間ならばひとがいるでしょう?
真夜中は、独り占めでした。

街灯1本もない真っ暗闇。
月も出ていないので、本当に道の先に道があるのかもわからない暗さ。
その真っ暗闇に、ちらり、ちらり、花びらが舞い降ります。

上を見上げれば・・・・発光したみたいな、蒼ざめた満開のさくらです。
闇とさくらと自分しか存在しない空間にいるようでした。

これをフランス人の友達に話したら、「スバラシイィィー」と大絶賛されましたが、さくらは何も日本人だけを
感動させるわけではないようです。

アメリカにお嫁に行った友達は、テキサスのど田舎なのでさくらが見られないと残念がっていました。
さくらのかわりに、アーモンドの花が咲くとさくらを思い出すのだそうです。

ヤマトナデシコとは両極端にいるような彼女でさえも、春になればさくらが恋しいと言います。

日本の自生種は15種類ほど。でも交配・改良された里桜となると、200種類ほど。
ソメイヨシノは大島桜とエドヒガンの偶然の交配によって生まれた品種。


花戦(はないくさ:花軍とも)は、芸妓どうしの美しさを競うこと。

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「桜の木の下には死体が埋まってゐる!!」と書いたのは、梶井基次郎。

「のどかな春の日差しの中、散るさくらを眺めていると、なぜにこうも心が乱れるのだろう・・・・」と
詠んだのは紀貫之。

平安の上級貴族が好んで着る、海老染めと二藍の衣を重ねたコーディネイトは、「桜がさね」と呼ばれます。

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能楽の大成者である世阿弥は、『風姿花伝』の中で、「秘すれば、華」と言っています。
これは現代の役者たちも愛読者がいるという、演技の参考になる本です。
華やかさというのは、表現しようと派手にふるまえばできるというものではない。
内に秘めて演じてこそ、そこはかとない華が表現できるのだ・・・・というような意味。

西行は大阪の南河内のお寺に住んでいても、桜前線とともにさくらを追って
北上の旅をしてしまいますw

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坂口安吾の『桜の森の満開の下』も忘れがたい作品です。

鈴鹿峠にさらわれてきた姫君は鬼の化身。
盗賊をたぶらかして、人を喰らう・・・・

ただの幻想文学ではなくて、戦争という脅威に対する抗議の感情から書かれたのです。
妖しく残酷なものの象徴。

時代によって人々の愛で方は違えども、満開の状態をどうにかしてとどめたい、独り占めしたいと
おもう気持ち・・・・花恋いの気持ちは変わらないのでしょうね。
DNAに組み込まれているのかも? ww

現代ならばさしずめ写真ですね。
みなさんのブログでも、美しいさくらがたくさん見られて、桜前線がまだ上がってこない地域に住む
私でも、さくらの美しさを堪能できています( ´艸`)

みなさんは、どんな花恋い、なさっているのですか?




桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

桜の森の満開の下・白痴 他十二篇 (岩波文庫)

  • 作者: 坂口 安吾
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2008/10/16
  • メディア: 文庫



修羅 (1958年)

修羅 (1958年)

  • 作者: 石川 淳
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1958
  • メディア: -



細雪 (上) (新潮文庫)

細雪 (上) (新潮文庫)

  • 作者: 谷崎 潤一郎
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1955/11/01
  • メディア: 文庫



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nana_hyr

梶井基次郎、「桜の樹の下には」
坂口 安吾、「桜の森の満開の下」 どちらも学生の頃だいぶかぶれましたw

桜は絵も、本も、音楽もいいものがありますよね。
記事もさることながら、素敵な絵をたくさん見る機会をくださって
nikiさんに感謝!

by nana_hyr (2012-04-10 05:26) 

斗夢

niki さんの知識の広さと深さにいつも圧倒されています。
桜をライトアップ・・・とんでもない。
何のためにライトアップをするんでしょう・・・商売に利用するため?
月の光で見たいと思っても街の灯(マンション、街灯、商店)に照らされています。
山ん中に行かないとダメか^^。

by 斗夢 (2012-04-10 07:22) 

Hirosuke

>坂口安吾

先を越されてしまいました。

by Hirosuke (2012-04-10 10:09) 

kyon

ご無沙汰してます。
桜、年に一度の景色ですね。
桜を題材にした作品は、感慨深いものが多いように思います^^
by kyon (2012-04-10 11:09) 

ラン

桜は本当にいろんな表情があって、いつ時みても心に響いてきます。
朝日に照らされる桜、月の光に照らされる桜、散りゆく桜、どれをみてもそれぞれ違った表情で、飽きることはありませんね。
by ラン (2012-04-10 14:22) 

sonoka

全然話は変わってしまいますが、友人から「ソメイヨシノはみなクローン」と言われ、まぁそうなんでしょうけれど、なんだかなぁ~と思ってしまいました。

やっぱり昔から、桜の美しさから狂気すら感じる的なものはあったのですね。
もうすぐそちらも見頃を迎えるのでしょうね(^^
by sonoka (2012-04-10 14:24) 

伊閣蝶

坂口安吾の「桜の森の満開の下」、小説自体ももちろんですが、篠田正浩の映画もなかなか印象的でした。
by 伊閣蝶 (2012-04-10 14:32) 

koume

桜はいつ見てもいいものですね~^^
いつも素敵な絵、話、料理、雑貨とすごい知識の広さと
感性がうらやましいです♪

体調も良くなりました。
温かいコメント、忙しい中、本当にありがとうございます。
とても、とてもうれしかったです。

by koume (2012-04-10 16:00) 

t-toshi

桜児の死後、二人の男性がどうなったのでしょうか?
気になるところです。

Read more: http://niki310.blog.so-net.ne.jp/2012-04-09-1#favorite#ixzz1rdUtunsX
by t-toshi (2012-04-10 20:29) 

t-toshi

桜児の死後、二人の男性がどうなったのでしょうか?
気になるところです。

by t-toshi (2012-04-10 20:30) 

t-toshi

桜児の死後、二人の男性がどうなったのでしょうか?
気になるところです。
by t-toshi (2012-04-10 20:32) 

馬爺

日本人ならやはり桜は欠かすことのできない花ですよね、本当に種類も有るんですよね、今でも白い物や少しピンクの物、濃いピンクの物が咲いて居ります。
未だ桜前線が届いてませんかでもまもなくですね。
by 馬爺 (2012-04-10 20:33) 

しばちゃん2cv

タニザキの細雪、好きです。
石坂浩二主演の「細雪」も、きれいな桜が写ってましたね。
by しばちゃん2cv (2012-04-10 21:40) 

vega

これまでで最高の桜…
山梨県の身延山の「しだれ桜」でしょうか…。
by vega (2012-04-11 19:44) 

aya

心に響く 桜の色です。
一日のうちで、色んな表情を見せてくれます。 時間が違えば
またたくさん撮ってしまいます、まさに魔物に魅入られたようです(*´-`*)ゞ
by aya (2012-04-11 20:31) 

コダテタカユキ

「桜」を愛おしく思い、「桜を恋う人の心」を愛おしく思います。
時に嬉しく、時に悲しく、出会った桜の数だけ、
そこに紛れもないありのままの自分が存在できるような気がします。

いつもniceをありがとうございます。 m(_ _)m
by コダテタカユキ (2012-04-12 09:56) 

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