北野恒富の 『道行』 [Paintings]
北野恒富(1880~1947)は、大阪の日本画家です。
これは2双の屏風絵。
近松門左衛門の『心中天の網島』に着想して描かれたと言われています。
どうです? このデカダンな美。
妻子ある紙屋治兵衛と、遊女の紀伊国屋小春が心中するという話です。
今の私たちの常識からするとちょっと不思議な感じのストーリが『心中天の網島』。
登場人物は、
紙屋治兵衛・・・・・妻子ありながらも小春と熱愛する男。
小春・・・・・・・・・・・遊女。
おさん・・・・・・・・・・治兵衛の妻。
お客と遊女を超えて愛し合う二人を見かねて、遊郭の主人は二人を引き離そうとするけれど、
二人はかえって、よけいに燃え上ってしまいます。
そして引き裂かれるくらいなら、と心中を決意します。
それに勘付いた妻が、小春にどうか夫を返してと手紙を書きます。
小春は妻の心を思い、治兵衛との別れを決意します。
そして愛想を尽かしたと、演技するのです。傷ついた治兵衛は家に戻りますが、「一人で小春は死ぬかもしれない」と妻に漏らします。
身を引いてくれた小春に感謝した妻は、それで小春に死なれては義理返しができないと、小春を身受けするように夫に進言し、財産をかき集めます(このあたりから心理がわからなくなりますね)。
そこに妻の父が来て、状況を見て激怒、無理やり二人を離婚させます。
妻子を奪われた治兵衛は小春のもとへ行き事情を話し、それで二人は心中を決めるのです。
これは道行の場面。
道行(みちゆき)とは、浄瑠璃の一番のハイライトです。
男女が死へ向かう場面であり、『心中天の網島』では、「橋渡し」というリズムある流麗な文章で有名です。
「午王の裏に誓紙一枚書くたびに 熊野の烏が小山にて 三羽づつ死ぬると」
という部分が作中にありますが、治兵衛と小春の描かれたほうの左上にうすく一羽、
片曲に濃く二羽、からすが描かれています。
死を連想させる不吉なからす。
うつろに空(くう)を見つめる小春と、まっすぐに破滅への方角を見つめる治兵衛。
不吉な、退廃的な妖艶さです。
江戸時代には、男女が永遠の愛を昇華させるために心中がはやり、社会問題になりました。
そして心中を取り扱った作の上映も禁止されました。
心中が美しいのは、芸術の中だけです。
現実には、決して美しくはないのです。
どちらか一方、死に損なったら、死罪が待っています。
両方死に損なえば、非人という奴隷の身分に落とされました。
そういえばもうすぐ、桜桃忌です。
6月19日。太宰治の命日。
現代と江戸時代では色々違うんでしょうね~、ちょっと我々には理解できない感覚ですね。
そういや太宰も心中ばかりしてましたね…。
by 1969kana (2011-06-06 01:10)
心中して 魂は何処へ行くんでしょうね、、、
幸せにはなれませんよね、、、
でも それを選択する気持ちもなんとなく
解る気がします
by (。・_・。)2k (2011-06-06 01:20)
破滅への暗示、滅びの美は日本人の美意識の根底に流れる
ものの一つと思います。桜の散り際の良さもまたそうですよね。
by punchiti (2011-06-06 07:48)
>永遠の愛を昇華させるために心中
う~ん。理解しにくいです。難しいですね。
by Gokigensan-Pictures (2011-06-06 08:21)
この場合の心中は「しんじゅう」ですが
心中拝察申し上げますのときは「しんちゅう」ですね。。。
くだらない疑問ですいません・・・
どちらもココロの中は他人には永遠に謎ということかなと。
by rtfk (2011-06-06 08:23)
おはようございます^^
この時代の『愛』って深いというか、なんというか。
妻の行動で考えさせられました。
by 月夜空 (2011-06-06 09:47)
妻の行動すごい。
でもある意味深いですね。
心中は、最後悲しい結末になるんですね・・・。
by arles (2011-06-06 11:50)
初めまして!
心中イコール情死ですね。
江戸時代の恋愛事情は現代と比較にならないくらい
純情だったかもしれないですね。
nikiさんの鋭い洞察力・感性は大切にしてほしいです・・・
by SIBA-dog (2011-06-06 13:04)
はじめまして。niceありがとうございました。
リンクを辿ってまいりました^^
心中…そうですよね。芸術…物語の中だからこそきれいに見えるかもしれないけれど、現実はそうじゃないのですよね。
一部分だけで分からない事がたくさんあるわけで。
どんな時であっても、その背景にあるものを感じ取れるだけの想像力は残しておきたいですね。
by 結城 奈保 (2011-06-06 13:25)
解説を読むと、なるほど!と感心してしまいました
by くまら (2011-06-06 15:55)
今日6月6日は楽器の日、、、らしいv(^皿^♪)
by emuzu (2011-06-06 16:35)
身分制度や家族のありかたが、今とは大いに違っていた頃のこと、
死んであの世で...という発想は、今よりずっと現実味のあることだったのでしょうね。
それでも、追い詰められての死、は哀しいですね。
by ナツパパ (2011-06-06 16:38)
イケナイ恋、、それがシュール=超現実だから
芸術(?)なのかも。。。
by pocoApoco (2011-06-06 18:24)
こんぱんは。
お芝居や絵画で情死を描くことがそれを美化することになってしまう、ということもあったかもしれませんね。自殺の場合にも言えることですが、それが美しい行為だと思わずに命を絶つことは難しいことだと思います。でも、おっしゃるとおり片方が残された場合は悲惨です。学生時代、片想いの末友人が自殺しましたが、本来何の罪も無い彼女は、精神的に随分悩んでいたようでした。
by sig (2011-06-06 19:07)
紙屋治兵衛と太宰治を重ねて読ませていただきました…
by macky (2011-06-06 20:38)
女性の目が怖いですね。
by ねじまき鳥 (2011-06-06 22:42)
こんばんは (^_^)
今回は純和風のお話なんですね。
nikiさんの見識の広さには、毎回、ビックリです。
by やまだ (2011-06-06 23:26)
ロミオとジュリエット
問題があるほど
燃え上がる 男女
恋って
結末が悲惨なほど
男女の崇高な物を感じます。
by iruka (2011-06-06 23:30)
はじめまして 私の知らない世界がここにはあり
とても興味深く読ませていただきました。
なるほど~ そ~なのかぁ~
by mipoko (2011-06-06 23:56)
はじめまして。
京都に住んでいますので南座で歌舞伎を
良く見に行っていました。
今の坂田藤十郎、当時の鴈治郎さんの
紙屋治兵衛の舞台ががすごくて3度同じ
芝居を見にいったことも。
ああ、また歌舞伎が見たくなってきました。
by しろうさぎ (2011-06-07 18:28)