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NATSU [l'histoires de femmes]

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奈津は1872年、明治5年に東京で下級役人の次女として生を受けました。
兄が2人もいたけれどどちらも早逝してしまい、あちこちに借金ばかりしていた父も事業に失敗して
病死してしまいました。

だから奈津は男尊女卑もはなはだしい明治の世の中で、家督を継ぐこととなりました。
幼いころから文学少女で、余裕があれば好きなだけ文学に精を出すことができたかもしれませんが、
女に学問は必要ないという母の考えと貧困のために、そうもしていられなかったのです。

歌塾に入門、小説も習いながらも、生活のために働きます。
借金のために許嫁(いいなずけ)とも破談。母と妹を養います。

上流階級の子女たちにまじって、苦しい生活を送りながらも文学を続けます。
粗末な着物を着て、それでも身分の差に負けず気高く生き、文学を目指す若者たちとも交流を深めました。
のちに出世したもと許嫁に求婚されたけれど、断りました。
貧しくても、彼女は限りなく気高い人でした。

二十歳の時に小説を発表し、23~24歳に次々と発表した作品が高い評価を得ました。
幸田露伴や森鴎外が大絶賛したために、世間から嫉妬され悪く評価されたこともありました。

そしてたった24歳で、彼女は兄と同じ結核で、あっけなくこの世を去りました。

短い生涯で、貧困と闘いながら薄倖の女の生涯を描いた奈津。
文学は生きている年数によってすぐれた作品が書けるわけではないことを、彼女や中島敦、中原中也、
宮沢賢治や太宰治たちが証明しています。

自分の思うがままに人生を謳歌できなかった、意志の強い、気高き若き明治の女性。
彼女は今、5千円札に描かれています。

樋口一葉、彼女が奈津その人です。


絵は鏑木清方の『一葉』。


にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

にごりえ・たけくらべ (新潮文庫)

  • 作者: 樋口 一葉
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2003/01
  • メディア: 文庫



大つごもり・十三夜 他5篇 (岩波文庫 緑 25-2)

大つごもり・十三夜 他5篇 (岩波文庫 緑 25-2)

  • 作者: 樋口 一葉
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1979/02
  • メディア: 文庫



樋口一葉日記・書簡集 (ちくま文庫)

樋口一葉日記・書簡集 (ちくま文庫)

  • 作者: 樋口 一葉
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2005/11
  • メディア: 文庫



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coucou♪(・ω・)ノ 349

ご自由に17

風太郎

一葉が通った東京文京区本郷菊坂町の質屋、使用ていた井戸、台東区の一葉記念館を廻りながら貧困にあっても筆を持つことについて考えたこともありました。
by 風太郎 (2012-06-27 05:07) 

cafelamama

今井正の映画「にごりえ」なかなか面白いです。
by cafelamama (2012-06-27 08:41) 

sfj-monkey

自分は今まで5000円札の彼女の顔が気持ち悪いからと5000円札を嫌ってましたが、今日のNikiさんの記事を読んで感動で泣きそうになり、今までの自分を反省しました。彼女の作品を読んでみます(-_-;)

by sfj-monkey (2012-06-27 10:48) 

大林 森

うぬぬ・・。そんなすさまじい人生を・・・・(>_<)わ、私ももう少しがんばらねば!(⊃д⊂)ひー!niki様!勉強になりました!ありがとうございます!恥ずかしいー!
by 大林 森 (2012-06-27 15:44) 

yuzuhane

樋口一葉の終焉の地、旧居跡は同じ区内にあります。終焉地は今はビルになって碑があるだけですが、旧居跡には井戸が残っといて一体にも古い風情が残っています。
by yuzuhane (2012-06-27 16:07) 

扶侶夢

光を当ててくれる人がいるから、ダイヤモンドはその真価を輝かせるのですね。niki さんのブログの数々のエピソードはとても貴重に思えます。
by 扶侶夢 (2012-06-27 20:29) 

etu

知りませんでした!
そうだったのですね。勉強になりました。
by etu (2012-06-27 21:22) 

旅爺さん

おはよう御座います。
ミスズさんなども若くして没しましたが、偉い人は年齢に関係無いようですね。
by 旅爺さん (2012-06-28 09:11) 

shinobirika

肖像画で樋口一葉だぁ~と直ぐに分かってしまった自分に苦笑いでした。
普段は人の顔をなかなか覚えられないのに、なんで歴史上の人の顔をやたら覚えてしまっているのでしょうかね(笑)。
by shinobirika (2012-06-28 10:08) 

arles

勉強になりました。
by arles (2012-06-28 11:22) 

nana_hyr

気高く生きる、命題ですね。
惑わされない信、持っていたいですね。
読んでいて甘くぬるい自分にちょっと落ち込むのだった^^;
by nana_hyr (2012-06-28 15:13) 

vega

都内某所にある一葉が住んでいた場所。
実際に使ったとされる井戸が残っていて、
「一葉の井戸」とも呼ばれています。

私の好きなアーティストさんが、
アルバムジャケットのロケ地として使い、私も訪れました。
昭和の香りの残る、良い街でした。
by vega (2012-06-28 21:46) 

secretariat

昔の人はホントに強いですよね。
by secretariat (2012-06-29 00:18) 

Hirosuke

その生が壮絶ゆえに、言葉が輝く。

画家の絵画も然り。

残酷な皮肉です。

by Hirosuke (2012-06-29 12:02) 

伊閣蝶

私は一葉の大ファンなのでうれしく拝見しました。
どの小説ももちろん素晴らしいのですが、私はあの「書簡集」に心惹かれる者です。
泉鏡花と交わしたものなど、何ともかわいらしくて胸がきゅんとしてしまいました。
by 伊閣蝶 (2012-06-29 18:59) 

ぼくあずさ

桜エビをお目当てに由比を訪ねる計画は、毎年延期です。
三浦半島葉山沖のシラスが今旬です。
by ぼくあずさ (2012-06-29 20:25) 

daimuran

へ~。知らんかったわ。
by daimuran (2012-06-30 21:41) 

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