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上村松園の『焔』(えん) [Paintings]

美人画といえば・・・私には鏑木清方(かぶらききよかた)でも伊東深水(いとうしんすい)でもなく、
まちがいなく上村松園が思い浮かびます。
shouen1.jpgこれは『雪月花』。

松園は京都生まれの京都育ち、生後2か月で父を亡くし、母によって女手一つで育てられました。
12歳で画学校に入りますが、肌に合わずに退学、鈴木松年に師事します。
そこで松園、という雅号をもらうのです。

15歳で描いた絵が、英国の皇室に買い取られ、天才少女として注目されました。
彼女の描く美人画は、どれもとても美しく静謐です。
harunoyosohoi.jpg『春の装ひ』。

27歳で息子を産みます。父親は・・・内緒です。
のちにこの子も日本画家になります。
花鳥画の大家、上村松篁(しょうこう)です。
syoukousirokujaku.jpg『白孔雀』 上村松篁。

ちなみに、孫の淳之(あつし)氏も花鳥画の画家です。
atusi1.jpg父と同じモチーフ、『白孔雀』 上村淳之。

松園が子育てもそっちのけで二階の部屋にこもって絵ばかり描いていたので、松篁氏は母を「二階のお母さん」と呼んでいたそうです。
松園自身が自分は絵を描くために生きていたと言っているように、彼女の絵にかける情熱は半端ではありませんでした。

彼女の代表作は数あれど、「女の情念」がにじみ出るような傑作が2点あります。
『花筐』(はながたみ)と『焔』(えん)です。

『花筐』は、以前ちょっと紹介したのですが・・・。
http://niki310.blog.so-net.ne.jp/2011-04-16-3 →(お暇なときにご覧ください)

『焔』こそは、一度見たら忘れられなくなります。
syouenhonoo.jpg
これは『源氏物語』のなかの「葵」の巻で、源氏の7歳年上の愛人、六条御息所が、
源氏の正妻の葵の上を生霊(いきすだま)となってとり殺してしまう話によります。

六条御息所は、源氏の父帝のお兄さんだった東宮に16歳で嫁ぎ、姫君を一人産んで20歳で未亡人になった人です。教養が高く、夫の死後は片田舎で風流に生きていました。

でも十代の好奇心いっぱいの源氏は、この七つ年上の未亡人を落としてやろうと考えるわけです。
悪い子ですw

この部分は欠落していると思われるので、二人のなれ初めは定かではありませんが、有名な「雨夜の品定め」(若い男たちが宮中で女性論に花を咲かせる話)の後で17歳の源氏は中流貴族の後妻、空蝉を落としたいきおいで、この身分の高い未亡人も、どうにか落としてしまうわけです。

伯父さんの奥さんでしょう? すごいw

御息所は年上らしく、源氏のことを束縛しません。
でもカンペキな女は、そのうち煙たがられるのです。
源氏はだんだん、この年上の愛人が負担になってくるのですよ。

そんなある時、源氏が不仲だと言っていた正妻の葵上が、妊娠したと聞くのです。
おまけに、加茂の斎院のお祭りの行列を見物した時、葵上の従者が、御息所に公衆の面前で無礼なふるまいをしたのです。
プライドの高い彼女には耐えられない屈辱だったのです。

葵上は、生霊になった御息所に苦しめられながら息子・夕霧を産み、息絶えます。
自分が何をしていたのか記憶にない御息所。
でも彼女の衣からは、ケシの香りが妖しく漂って、意識はぼんやりとするのです・・・。

ケシの実は、当時の悪霊退散のお祈りの時に焚かれていたもの。
体を抜け出した情念が、生霊となって愛人の正妻を呪い殺したのです。

松園は髪を結う暇も惜しんで、憑りつかれたように一心に絵を描いたといいます。
彼女にそこまでさせたものは、彼女自身もわからないと述べています。

でも・・・・。実は。

40代に入り、松園は年下の男に大失恋したそうです。
それで43歳の時、この情念にじみ出る傑作を描いたわけです。
今までの彼女の美人画とは確実に線を逸しています。

恋の苦しみ、執着の苦しみ、行き場を失った心。
女ならば誰でも持っていて、決してひとには見せられない感情。
こんな絵は、男にはどんな大家でも天才でも描けませんね。

まるで魂が抜けたかのように、それから数年は出展がなかったそうです。

そして61歳、『序の舞い』を描きます。新境地です。
jonomai.jpg
「女性の内にひそむ強い意志を表現したかった」と松園本人は語りました。
赤い着物は秘めた情熱。
背筋よくきっぱりと前を見据え、水平に前を指す扇子の凛とした美しさ。

男ばかりの日本画の画壇で壮絶な嫉妬を受けながらも、絵を描くために生き続けたと言い切った松園。
敬服いたします。








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Gokigensan-Pictures

美しいですね。また、綺麗な色使いですね。
by Gokigensan-Pictures (2011-05-18 00:31) 

Noa

すごく面白い内容でした。

こんな絵を書いてみたいですね。
by Noa (2011-05-18 01:10) 

せいじ

美人画と言えば私の中では鶴田一郎です。

上村松園さんの絵も素敵ですね!
by せいじ (2011-05-18 06:14) 

arles

松園の美人画綺麗ですよねー。
でもその後の絵が、すごい。
悪霊を退散させるとか呪い殺すとかすごいお話ですね。
実は、失恋と合わさって描かれていたのですね。
序の舞いでの、新境地。
その方の気持ちと重なっての大作なんですね。
勉強になりました。
by arles (2011-05-18 07:21) 

standard55

ご訪問、niceありがとうございます。
私も日本画にはとても興味があります。デジタル画に採り入れ
たいと思うのですが、なかなか思うようにいきません・・
今後ともよろしくお願い致します。
by standard55 (2011-05-18 07:40) 

まぐろ

私も好きな画家で以前テレビで見たことがありましたが、
改めて彼女の生涯を知ることが出来ました。
波乱万丈な彼女だから描きあがられた作品ですね。
序の舞はあまりにも有名で傑作ですね。
by まぐろ (2011-05-18 07:52) 

ゆず香

私も松園大好きです。
去年は京都国立美術館の松園展や
奈良の松伯美術館に行きました。
序の舞を始め、引きこまれますね。素敵です。(^.^)
by ゆず香 (2011-05-18 08:18) 

セイミー

ご訪問いただき有難うございます

by セイミー (2011-05-18 08:24) 

rtfk

おはようございます^^)
年上の知人で松園が大好きな人がいます(^w^)
数点所蔵されているので拝見したことがありますが
ワタシのような素人が観てもすばらしく美しい作品でした。。。
by rtfk (2011-05-18 09:38) 

テレーズ♪

何時もちゃんと勉強してブログにしていて感心しています。
by テレーズ♪ (2011-05-18 11:34) 

luces

焔は女性にしか画けない女性の情念のようなものを感じます。
表情や藤に絡まる蜘蛛の糸が、六条御息所の哀しさを物語っていると思います。序の舞いには芯からの強さを感じますね。
by luces (2011-05-18 12:21) 

tacrotacro

日本画って海外のものより、美しく見えます^^

日本人だからでしょうか、何かを感じるような気がしますねw
by tacrotacro (2011-05-18 12:22) 

よしあき・ギャラリー

絢爛豪華です。
by よしあき・ギャラリー (2011-05-18 14:21) 

びくとる

ご訪問ありがとうございます。♪
by びくとる (2011-05-18 14:59) 

マチャ

自宅近くに、上村家の美術館があります(松柏美術館・奈良市)。
素晴らしい芸術一家ですよね。
by マチャ (2011-05-18 21:29) 

ぱぱくま

艶やかですね。日本芸術のその繊細さに改めて感嘆します。
by ぱぱくま (2011-05-18 23:54) 

tomickey

どうもniceをありがとうございます!
南京ではniceが押せないのでコメントにて失礼致します~(^_-)
by tomickey (2011-05-19 00:12) 

michaela

nice!ありがとうございました。
私も『焔』は大好きです!なんともいえない雰囲気が漂っていますね。
by michaela (2011-05-19 07:25) 

さる1号

焔・・・初めて見ましたが見た瞬間にゾクッと。
これは実際に見てみたいです。とりつかれたかな・・・・
by さる1号 (2011-05-19 07:49) 

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