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Strange Fruit [和訳のセカイ]



奇妙な果実



南部の木々には奇妙な実がなる

葉には血を置き 根っこは血を吸い


南部の風に 黒い死体がゆうらゆら

ポプラの木ににつりさげられた

奇妙な木の実


うるわしき南部ののどかな風景

飛び出た目玉にゆがんだ口元

甘くかぐわしいマグノリアの香り

そして突然、肉の焦げた匂い


カラスにむしりついばまれ

雨に打たれて 風になぶられ

太陽で朽ち果てて ぽとりと落ちる


奇妙で悲惨な 木の実があるよ




BillieHolidayStrangeFruit.jpg



17世紀から19世紀にかけて、アメリカでは特に南部に、奴隷制度がありました。
奴隷は奴隷なので、人権などありませんでした。

主人の意のままに、牛馬のごとくこき使われようが、鞭で打たれようが、
腹いせに殴り殺されようが犯されようが、何もできませんでした。

人権の蹂躙は日常茶飯事で、奴隷が殺されてもニュースになることはありませんでした。

南部ので奴隷は主に、タバコや綿花のプランテーションで働かされていました。
子供が生まれれば売り買いもされていました。
「繁殖用」の女性たちは高く売れたといいます。

変化は19世紀後半。
一人の男が大統領となり、1861年に南北戦争が勃発、そして63年のお正月の奴隷解放宣言。

ある種の人種がほかの人種より優れているという考えは、
人間が持つもっとも恥ずべき驕慢のひとつだと思います。


南部には大した罪もないのに縊(くび)られた奴隷たちの死体が木々につるされていると
そんな事実を知ったユダヤの教師がこの詩を書きました。


そして、南部のツアー中に肺炎にかかり、黒人であったから診察を拒否されたために亡くなった、
ミュージシャンだった父親の死に理不尽さを感じていたビリー・ホリデイの、深い共感を得ました。

彼女の声、その表現力で、見たこともないひどい光景が、目の前に浮かんでくるようです。
この歌は彼女のステージの締めにうたう歌となり、この歌の始まる前には、聴衆もスタッフたちも
その場のすべての人々が敬意を示したといいます。

私は中学生の時にこの歌を知りました。とてもショックを受けました。
そして今、初めてちゃんと訳してみました。
実際の写真も見ましたが、ここには載せません。

自らも人種差別を受けていた、もっとも偉大な歌手のひとり、ビリー・ホリデイ。
次週は彼女の人生について、私の視点からちょっとお話ししましょうか。
(なぜ次週なのかはその時に明かしますね)

a.HesiodListening to the Inspiration of the Muse.Edmond Aman-Jean.small.jpg

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