トランジ像 [なんちゃって博物誌]
以前、メメント・モリの時にお話ししましたが、中世ヨーロッパは飢饉や洪水などの天災やペストなどの疫病に悩まされました。
メメント・モリ→ こちら。
メメント・モリが今という瞬間を大切に、なるべく悔いのないように過ごしなさいという考えならば、この像はそのあとのことを表す像といえるでしょう。
ペストが大流行して、カトリックがローマとアヴィニョンに分裂したころに流行ったそうです。
トランジとは、ラテン語のtranireが語源です。
trans-=横切る
-ire=行く
を意味します。もとは死者そのものを表したそうですが、トランジ像は死後の肉体が朽ち果ててゆく様を表現した彫像、ということになるでしょうか。
わざとおぞましく作られていて、カトリックの高僧たちが自らの墓碑として始め、裕福な貴族たちも真似をするようになったようです。
普通なら、自分のもっともよい姿を残したいと思いますよね。
でも、美しく高貴なご婦人たちも朽ちてゆく自らの像をわざわざ残しました。
その意図はこうです。
生きている間は身分の違い、貧富の差、何歳で死ぬか、どのように死ぬのかは人それぞれ違います。
でも、誰であれいつかは死ぬのです。
そして放っておけば、どんな美しい人も高貴な人も、有機物ゆえに醜く変わり果てるのです。
高僧たちは自らの朽ち果てる姿を彫像に残すことで、どんな身分のものでも結局はこうなるという自らへの謙遜と、「だからね、ほら、祈ってくださいね」という死者の祈りへの要求なのだそうです。
蛆やヘビ、ヒキガエルなど、さまざまな醜い虫たちが這いまわる、はらわたむき出しの彫像なんて悪趣味と言えば悪趣味ですが、そんな万人が顔をそむけたくなる姿が、実は真実だ・・・ということを突き付けられると、ぐうの音も出なくなります。
パリで見かけたらまたレポートしますね。
仏教画の「九相図」と似たものですね。水木しげる先生と妖怪が好きな私は、トランジ像にも興味津々!(最後の像、カエル好きだけど、怖い。)怖いけど、見たいです。
by hanamura (2015-05-22 13:09)
日本には幽霊の掛け軸がありますね。
by 斗夢 (2015-05-22 18:30)
トランジ像、惹かれます。
京都に住んでいたときに祇園祭のタペストリーで同じような絵をみた記憶があります。
仏教でも同じような絵がありますよね。
今の日本では目に触れないようにしている世界ですが、
本当は全国の居間に掛けられる日が来ることを願います(^_^)
子どもたち、いや大人も、曾祖父母や曾祖母の亡骸の傍で過ごす時間を長く取れたらと思います。
by ojioji (2015-05-26 21:54)
nikiさん、お久しぶりです。スピリチュアルな像ですね。深く考えさせられます。
by ciel-bleu-fonce (2015-05-28 07:49)
時に悪魔に魅せられますね!・・・あぶないうあぶない♡
by タッチおじさん (2015-05-31 12:03)