Don't threaten me with love,baby. [l'histoires de femmes]
1915年4月7日、フィラデルフィアで19歳の少女ミス・フェイガンが、未婚のまま女の子を産みました。
子供の父親は17歳の少年でした。
エリノラと名付けられた少女は、若い母親には育てきれなかったのでボルチモアに住む、
母親とは半分だけ血のつながったその姉、つまり伯母・・・、の姑に育てられました。
彼女は黒人。
母方の祖父は、アイルランド系の牧場主が黒人の奴隷の少女に産ませた混血でした。
そう、彼女のルーツはまだそんな時代にあったのです。
10代になると母親とともに暮らし始めますが、レストランで働き詰めのため学校に通えず、
11歳で放校処分になったそうです。
学校にも行かず、毎日毎日働き詰めの幼い少女。
11歳のクリスマスイブに、デートから帰った母親はエリノラが隣人にレイプされたと知ります。
母親の通報でこの隣人は逮捕されますが、わずか数か月で釈放されました。
エリノラはもっと稼ぎのいい仕事を求めた母親とともに、NYへ引っ越しました。
でもこの母子ができることと言えば、身を売ることくらい。
13歳で彼女は1回5ドルで身を売る娼婦になるのです。
彼女のことを認知しようとはしなかった若い父親は、ギタリストになりました。
彼女は幼いころに会った父にあこがれを抱いていたのかもしれません。
男の子のようだったエリノラを見て、父は「やあ、ビル」と男の子の名前で呼んでからかいました。
そんな父へのあこがれから彼女は、次第にステージへ興味を持ち始めたのです。
禁酒法時代。
もぐりの酒場、ナイトクラブがたくさんありました。
その中の一つで歌い始めたのです。
15歳で歌手デビュー。
芸名は父が幼い自分をからかって呼んだ「ビル」から、「ビリー」としました。
それに父親の名字を足して、「ビリー・ホリデイ」です。
天才とは幼いころから英才教育を受けてほんの一握りの人がなれることもあるけれど、
天性の才能を持つ、稀有の存在の天才も存在するのです。
彼女はまさに後者でした。
時は大恐慌、黒人への差別も激しい時代。
男でもひどい差別を受けるのに、まして女で、まだ幼い少女。
世の中の風潮に乗らない、人種差別のないクラブで歌えたことは幸運でしたが。
Cafe Society。
彼女はそこの看板歌手として、ベニー・グッドマンやマイルス・デイヴィス、デューク・エリントン、ルイ・アームストロングなどのビッグネームたちと共演しました。
レスター・ヤングがつけたニックネームは、世界中で彼女の代名詞となります。
それが「Lady Day」。
彼女は次第に稼ぐようになり、母親に小さな食堂を持たせるまでになりました。
だれにもまねのできない声と表現力。
素直に歌うことなく、必ず自分流にアレンジを加える歌い方。
しかしNYではもてはやされても、ツアーに出れば南部ではひどい差別を受け、時には白人のバンドと共演させてもらえないこともありました。レストランに入ることもできないし、トイレも白人とは別です。
父親は南部でツアー中に肺炎にかかり、黒人だからという理由でどの病院でも診察を拒否され、手遅れで亡くなりました。
そのころは彼女はミュージシャンと結婚しますが、彼は売人でもあり、アヘンやコカインを彼女に与えました。
なぜって・・・
彼女をクスリでつなぎとめ、彼女の稼ぎを搾取するためです。
やがて別れますが、次に付き合った男も彼女に麻薬を与えます。ヘロインも覚えさせられたのです。
母親が亡くなるとうつ病になり、ドラッグに加えてアルコールにも溺れるようになります。
麻薬所持で逮捕され服役したことは一度や二度ではありませんでした。
出会う男たちは彼女に愛を与える代わりに薬を与えました。
LSDにも手をだして仕事がおろそかになってきた彼女は、NYじゅうのクラブから締め出されてしまいました。
「麻薬ができることといったら、人を殺すことだけよ。それもじわじわと、ゆっくり、ひどいやり方でね」
彼女自身の言葉です。
もう戻れないところまで来ているとわかっていたのでしょう。
でも・・・やめられなかったのです。
1948年の3月。
クラブを締め出された彼女は、コンサートとツアーで食いつないでいました。
その中でも最も素晴らしいステージは、カーネギーホールでした。
これはポーラ・パットンがビリーを演じたショット。
クチナシの花を髪に飾り、アンコールまでも魂を込めて歌いきりました。
そして念願のヨーロッパツアーも果たしますが、そのころには彼女の肝臓はアルコールにむしばまれて悲鳴を上げ始めていました。
浴びるように連日飲み続けるアルコールで、肝硬変と腎不全を引き起こしました。
そして1959年7月17日、44歳の若さでこの世を去りました。
「愛はまるで水道の蛇口ね。出てきたり、出なくなったり」
彼女は多分、心の安らぐ場所が欲しかったのでしょう。
でも、誰も彼女の望むものは与えてくれなかったのです。
彼女を、金づるとしか見なかったから、麻薬漬けにしたのです。
「愛であたしを脅さないで、あなた。ただ、雨の中を濡れながら歩きましょうよ」
彼女にとっては一人でいるよりもロクデナシといるほうがましだったのでしょうね。
「あたしは自分以外は誰も傷つけたことはないわ。あたしの都合であって、誰にも関係ないでしょうけどね」
そして彼女は、今でも稀有の存在であり続けているのです。
LEFT ALONE
あたしの心を満たす愛はどこにあるの?
あたしが絶対に離れたくない人はどこにいるの?
男たちは初めにあたしを傷つけてそして見捨てるの
あたしはひとり、ひとりぼっちなのよ
家だと呼べるところはなく
落ち着くことのできる場所もない
街でも、都市でも、残念なことに
あたしは取り残される、一人ぼっちで
さがして見つけ出せと人は言うけれど
いままで、そうなったことなんてないの
たぶん運命は 愛する人があたしを通りすぎていくようにしている
あるいは、死ぬ前に出会うことができるのかしら?
準備はしておくけれど
それまではひとり、あたしは一人ぼっちよ
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7月17日はビリー・ホリデイの命日なのです。
ニーナ・シモン、ジャニス・ジョップリン、ダイアナ・ロス、
そしてメイシー・グレイやエイミー・ワインハウスにも影響を与えたLady Day。
今聴いても古いどころか、また新しい発見があります。
本当に偉大です。
先週末は軽く熱中症(人生で二度目)にかかり、頭がぐらぐらしていました~
というわけでご訪問遅れています^^;;;
by niki (2014-07-15 12:21)
幼いころから・・・。
やるせない思いでいっぱいになりました。
天国で、今は幸せにしているといいのですが・・・・
by koume☆ (2014-07-15 12:37)
熱中症怖いですね。
無理されませんように。
by がり (2014-07-15 13:20)
熱中症、お気をつけて。
今年も、海の家の手伝いが始まりました。
by cafelamama (2014-07-15 15:27)
熱中症~~~。
大丈夫ですか?
お大事にね。
by shiho (2014-07-15 21:27)
nikiさんはJazz好きか?
Left Aloneは大好きな曲でよく弾くよ
自分の場合は意味もなく、スカッとしたい時にアップテンポで弾く
薬が効いてくると、ゆっくり、一音一音、確かめるように弾くけどね
I'm left alone,all aloneでもないけど、この30分の間だけが楽な時間なんです
どちらで弾いても好きな曲なんだけど、Bud PowellのCleopatra's Dreamも聴いてみ
フランスに渡る前、同じく麻薬と酒に溺れた音が聴こえるよ
麻薬で凄くハイになっていた時の演奏だったと思うけど、何となく悲しい音だよ
そうそう、MarleneのLeft Aloneも大好きだけど、映画で使われた曲で、急いで録音したのかな?
何故か、この曲だけが音が悪く、信濃スタジオの音がしない曲でもあるんだよ
hearts will open but until then・・
心臓が止まらないようにしとく(笑)
by Rose (2014-07-16 00:22)
熱中症、たいへんでしたね。真夏日が続いておりますので、体調にはどうぞ気をつけてくださいね。
by ciel-bleu-fonce (2014-07-16 03:11)
壮絶な人生ですね。
素晴らしい才能に恵まれたのですが、その才能がなければ
金づるになることもなく、もっと長生きできたのでしょうか?
それとも、短い人生だとしても歌とともにある人生で良かったのでしょうか?
いろいろ考えさせられます。
by aloha (2014-07-16 12:19)
ビリーホリデーの亡くなった明日は、京都祇園祭のクライマックスですね。
by モリガメ (2014-07-16 20:20)
ひとの才能を自分の飯のタネにしてしまう。寄生虫人がいつの世にもいるんですね。
風太郎も11日に熱中症にかかりフラフラしていました。
by 風太郎 (2014-07-18 15:07)