The Wind

彼は同僚の一人で、かなりの古株だった

小柄ですこしぽっちゃりとしていて、お世辞にもかっこいいとは言えなくて

皮肉屋で他人に関しては厳しいことを言うから

職場で業務的なことを話す程度だった

左の薬指に指輪をしていたけれど

ずいぶん前に離婚していたらしい

そりゃぁ、彼にだっていいところはあったけれど

それ以上に皮肉さが目立っていた

私は何もひどいことを言われたことはなかったけれど

彼と話して気分を害する人は結構いたみたい

ある朝

彼は

出勤してこなかった

そして誰かがみんなに言った

彼が昨夜、薬を飲んで命を絶ったこと

親友はいなかったみたいだと

原因は何だったのかと

みんなは噂し合っていた

私は彼をよく知らなかったけれど

誰にも言えない悩みを抱えながら

日々、淡々と生きていた彼のことを考えた

孤独な魂は

どこに行ったのだろうと考えた時に

風が

真夏の暑い風が

ふと　ゆるく吹き上げた

それから何年も経ったけれど

彼は特別親しい人ではなかったけれど

真夏の暑い風が吹くときは

いまだにちょっと、思い出すことがある