椿 [Livre de fleurs]
アレクサンドrノ・デュマの『椿姫』は、何度でも読み返してしまう愛読書の一つです。
自分が年を取っていくたびに、初めて読んだ10代のころとは違う印象を受け、気付かなかったことにふと
気付くことがあります。
享楽的できらびやかな毎日を送っていた高級娼婦。
彼女は月の25日は胸に白い椿の花を、5日は赤い椿をつけています。
白い椿は「よろしくてよ」、赤い椿は「休業中ですの」というサインです。
宝石もドレスもぜいたくな暮らしも、望めば何でも手に入る彼女は、そんな生活に飽き飽きしていました。
でもある日、純真な青年と出会ってはじめて、本気の恋に落ちるのです。
彼のまっすぐな愛情は、彼女の胸に深く響きました。
でも、二人の仲を知った彼の父親は、どうか息子のために別れてほしいと彼女に言うのです。
彼女は納得します。でも彼は納得せず激昂します。
ヴェルディのオペラでは、主人公は「すみれ」という名前でしたね。
彼女は若く美しいのに、胸の病に侵されていて、自分の死期が近いことを悟り、彼のために身を引く
決心をするのです。
小説の最後のほうは、日記形式になっていて、病に侵されながら弱ってゆく主人公の姿が描かれています。
本当は別れたくないのに相手のためを思って別れた彼女が、病気のために気弱になって、会いたいおもいを
つのらせます。このあたりで、心に響かない人はいないのではないでしょうか?
椿の花は、どこかそんな不幸な翳りをもっているように思えます。
実は『椿姫』は、デュマの実体験をもとに書かれたものです。
父親は有名な作家、その私生児として生まれた彼は、父親の金で遊びまわる放蕩息子。
そして20歳の時、運命の出会いをします。
マリー・デュプレシという、気品と優美をあわせもった同い年の高級娼婦と恋に落ちたのです。
でも彼女は、23歳の若さで結核で亡くなってしまいます。
デュマは24歳の時に、彼女の思い出をもとに『椿姫』を書き上げました。
放蕩息子もやはり父親の才能を受け継いでいたのでしょう。
恋愛は芸術とは切り離せない要素だと思います。
甘やかな感情も切なさも昂揚感も、苦しみも悲しみもすべてがすぐれた作品を生み出すのです。
椿の花は、バラほどの華やかさはないし、ユリほどの香りもありません。
でもどことなく品格があって、おもわず目を留めずにはいられない妖しい魅力があります。
似たような花としてサザンカがありますが、サザンカがひらひらと花びらを散らすのに対して、椿はひとつの
花ごと、ぽとりと落ちます。
風もない日の午後、ぽとりと花が落ちる姿を見ると、はっと胸が締め付けられるようです。
どことなく、はかなさを感じさせずにはいられない花。
東アジアから東南アジアにかけて自生します。
ヨーロッパには18世紀ごろにもたらされたそうです。
花を愛でられるばかりでなく、その油は昔は明かりのために使われたり、あるいは現代でも髪のために
使われたりします。つややかな黒髪の手入れには、欠かせないものです。
椿の木で作られたクシも使ううちに油がにじみ出て、髪をつやつやに整えてくれます。
この記事を書くにあたって、補足のために花言葉を調べてみたのですが、たくさんありすぎて驚きました。
やはり国や文化、見る人の印象によって、イメージが違ってくるのでしょうね。
白・・・・冷ややかな美しさ、完全なる愛らしさ
赤・・・控えめな愛、気取りのない愛らしさ
色に関係なく、椿自体としては、「理想の愛」。
デュマが亡き恋人に椿の花のイメージを重ねたことが、わかるような気がします。
彼によって彼女は、永遠に文学の中に行き続け、時を超えて世界中の人々にその存在を知らしめ
続けています。
椿の花は冬から5月くらいまでは見ることができますね。
こんばんは。
初めて見たオペラが「椿姫」でした。それ以来、オペラが好きになりました。
by sig (2012-04-08 00:41)
椿で思い出すのは山本周五郎の時代小説「五弁の椿」、熊本民謡の子守唄。哀愁をそそる花です。
by 風太郎 (2012-04-08 05:40)
昔から話題になる花なんですね。
by 楽しく生きよう (2012-04-08 06:10)
昔、フェニーチェで観たラ・トラヴィアータが強く印象に残っています。
by cafelamama (2012-04-08 06:51)
椿の花、綺麗ですね。
コメントありがとうございました。
by toshi (2012-04-08 06:58)
中学時代に読んでから御無沙汰のお話です。もう一度読み返してみたくなりました。
by shinobirika (2012-04-08 09:46)
若いときは椿に興味が全くなかったのに、最近とても気になる
そして素敵だなぁ~と思うようになったんです♪
やっと大人になったのかしら (^^ゞ
by mipoko (2012-04-08 14:02)
椿の花はきれいですが、花の真ん中あたりのワサワサっとした部分(雄しべ?)がちょっと苦手です。
「椿姫」を読んだ事が無いので、読んでみようと思いました。
by はなぶく宇宙人 (2012-04-08 15:11)
素敵な、哀しいお話ですね。
今度読んでみます、潔い椿の花は美しいです♪
by aya (2012-04-08 19:42)
ヴィオレッタをアンジェラ・ゲオルギューが演じた、このDVD、私も所持しています。
素晴らしい演奏だと思います。
by 伊閣蝶 (2012-04-08 22:12)
椿姫は、資生堂のマークとなにか関係があるのか?とずーっと思っていました。(←関係ないです)
by me-co (2012-04-08 22:18)