運命に翻弄された男 [l'histoires d’hommes]
ときどき、ひとは自分には予測もつかない大きな運命を背負って生まれてきてしまうことがあります。
それは貴賤にはかかわらないようです。
ブルボン家の傍系であったシャルル3世も、壮大な不幸を背負って生まれたようでした。
傍系でありながら、ブルボンの正統な後継者である1歳年下のまたイトコと15歳で結婚することから
その不幸は始まったのかもしれません。
シュザンヌ。
妻のシュザンヌは、ほかに男児がいなかったためにブルボン女公となりました。
彼女の地位が、のちのシャルルに不幸をもたらすきっかけとなりました。
まず1514年。
シャルルが24歳の時のことでした。
のちのフランス王・フランソワ1世の結婚式で、ある女性からひとめぼれされました。
ルイーズ。
それは・・・当のフランソワ1世の母后・ルイーズ・ド・サヴォワでした。
彼よりも14歳年上のルイーズは、妻シュザンヌの従姉にあたる女性でした。
もしかして、この時から彼女はシャルルを取り立てようと画策し始めたのかもしれません。
翌年にはマリニャーノの戦いで活躍したシャルルは、フランソワ1世によってフランス元帥に任命されています。
マザコンのフランソワ1世を、ルイーズが陰で操っていたのかもしれないです。
フランソワ1世。
そんなことはつゆ知らず。1517年、シャルルの妻のシュザンヌは、男児を出産。
でもこの子は夭折してしまいました。
夫婦仲はよかったのでしょうね。恐ろしい横恋慕には、二人とも気づかなかったことでしょう。
翌年にはまた身ごもりますが、妻は双子を死産してしまいました。
そしてシュザンヌは徐々に体が弱くなり、双子死産の3年後に亡くなってしまいました。
ここから、彼の運命は大きく傾き始めます。
母后ルイーズは、ブルボン家の正統な後継者であることを主張して、亡きシュザンヌの莫大な遺産を
自分が相続することを訴え出ました。
フランス元帥のシャルル。
もしもシャルルが所領を差し出すことを拒否するのならば、強制的に取り上げるというのです。
でも、もし、もしも、彼が自分(=シュザンヌ亡き今、血縁の正統のブルボン家の人間)と結婚するならば、
そんなことは要求しない・・・・と。
あら。まあ・・・・・・
シャルルは降ってわいたわけのわからない要求に、眉をひそめたことでしょうね。
なにせ、一方的にフランス王の母親にひとめぼれされただけなのですから。
もちろん、彼の答えは・・・Non!!!!
法廷で争いましたが・・・
振られた母后ルイーズは息子のフランソワ1世を巧みに操って、結局シャルルの所領を取り上げてしまいます。
フランスに絶望した彼は、当時フランスと敵対していた神聖ローマ帝国のカール5世のもとへ行き、フランスを
敵に回すことを決めました。
カール5世の軍の指揮官となった彼は、フランス軍とたたかいます。
1525年の戦いでは、フランス軍の指揮官であったフランソワ1世を捕虜にしました。
彼の中には、祖国への愛とフランソワ母子、とくに母后のルイーズへの深い憎しみが渦巻いていたことでしょう。
いくら軍功をあげても、カール5世から受けた勲章を身に着けることはなかったそうです。
一方、ルイーズはシャルルを手に入れるために浅はかな行動に出たことで、神聖ローマ帝国軍との戦いで
フランスに大打撃を与えたということで、愚かな母后と呼ばれました。
シャルルはついに故郷に戻ることはなく、ローマでの戦いの最中に、火縄銃で撃たれて死んでしまいました。
37歳・・・。死して彼は「反逆者」として、全財産を没収されました。
でもひとつ・・・・
不可解なことが。
彼は戦場でもふところに、ひとつの指輪を潜ませて持ち歩いていました。
それはなんと、フランソワ1世の母后、自分を祖国への反逆者にしたルイーズからもらったものだったのです。
憎しみは、どこかで不可思議な愛に変化していたのでしょうか?
それとも、彼女個人ではなく、祖国フランスの象徴として、手放せなかったのでしょうか?
あるいは、それを自分がまだ持っていることで、ルイーズに恥をかかせ続けられるというような気持ちから
でしょうか?
なぞです・・・・。
ルイーズ
彼女のほうはきっと、祖国を敵に回してまで自分を拒んだシャルルを心底憎んだことでしょう。
ひとめぼれはいつしかゆがんだ愛として、憎しみを伴う執着に変わっていたのかもしれません。
彼の全財産を没収させ、使者を送り彼の死を確かめさせたそうです。
あるいは、かつて自分が求婚して与えた指輪を、なんとしても取り返そうとした女の意地のプライド
なのか・・・・。
あるひとつのことが自分から無くなったり、終わったりしたあと
あれよあれよと環境がかわる時たしかに運命を感じます。
こわいですよね。
そして死人に口なし、状態w。
当事者にしかわからない何かを秘めたままこうして後世に知られることになろうとはw
by nana_hyr (2012-02-02 01:34)
怖い怖い。
by arles (2012-02-02 08:22)
こんにちは。お水番です。
いつも興味深い記事、楽しみに拝読しております。
メインブログを「音蔵」という個人のブログに切り替えました。篠笛のソロ活動のことも書いて行きたいと思います。よかったら覗いてみてくださいませ。
by お水番 (2012-02-02 14:01)
いつも、おもしろい記事をありがとうございます
by しばちゃん2cv (2012-02-02 18:38)
ひとつ質問ですが、この記事の絵画は揃って16世紀に描かれたものですか?中には18世紀以降のものも在るのではありませんか?
by DM (2012-09-18 08:13)
はい、あります!! 2枚ほど。
実は、一番上はホントはスペインのカルロス3世なんです。
シャルル・ド・ブルボンがたくさんいすぎて、資料集めの手違いでした。
今回、ちゃんと換えておこうかなと思ったのですが、自分のあほさを
考えたらけっこうおかしかったので、またそのままにしてしまいましたw
どう見ても違うんですけどね~。
すみませんでした(*≧д≦)
by niki (2012-09-18 11:33)
では下から二枚目はやはり19世紀の絵でしょうか?
コンパスが気になったものですから。もし宜しければ詳細を教えて頂くことは可能でしょうか?お忙しい中申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。DMより。
by DM (2012-09-18 18:06)
おそくなってすみません。
コンパスの絵はうっかり年代とタイトルを控えておくのを忘れてしまって
正確な年代がわかりませんが、何かの布に描かれたものです。
たぶん、古いと思います。
コンパスは昔からよく描かれていて、宗教的な意味合いで言えばたしか
神が世界を創造したというモチーフにシンボルとして描かれていたように
記憶しています。
アリストテレスを描くときにも一緒に描かれることが多きようです。
12,3世紀ごろから中世にかけて描かれています。
シカの頭の上にキリストがいるので、なにか宗教的な意味合いの強い
絵なのでしょうか。ここまでくらいしか謎が解けなくてすみません^^;;;
by niki (2012-09-21 14:30)