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維盛入水 [平家物語]

維盛(これもり)は清盛の長男・重盛のこれまた長男、つまり、平家の跡取り息子でした。
彼はまるで女の子のような、華やかな美しい少年でした。

ひとつかふたつ下の腹違いの弟・資盛(すけもり)とは大の仲良し、何をするのも一緒でした。
まだ平和だったころ、弟と舞った青海波の舞の美しさは、光源氏と頭の中将にたとえられたほどに
華やかですばらしいものでした。

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でも彼ら一門に滅亡の影が差しかかり、祖父も、もともと丈夫ではなかった父もなくなって、彼は微妙な
立場に立たされました。

父は長男とはいっても池の禅尼(清盛の正妻)の子ではありませんでした。
だから彼は嫡男であっても、一門では暗に軽んじられていたのです。

平家が都落ちする際、彼は都落ちを拒みます。
でも無理矢理に妻子と引き離されて、連れて行かれるのです。

彼はもともと、武芸は苦手でした。宮廷での華やかな生活が恋しくて仕方ありません。
戦など、はっきり言えば、彼の知ったことではないのです。
そしてその不安定な気持ちから、彼は大失態を犯してしまいます。

富士川。
できないと言ったのに、叔父たちは彼を大将にします。
早朝に源氏と対決することになった前夜、水鳥の羽ばたく音を敵の夜襲と勘違いして、退却を
命じてしまいました。

遊女や宴席を踏み越えて退却したと、あきれられてしまうのです。

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この前代未聞の逃亡は、都の人々の嘲笑の的になりましたが、多くの要因が重なり、不幸な方向に作用して
しまったようです。絢爛豪華に出陣しただけに、余計に非難されてしまったのでした。

この時から、叔父たちの自分を見る目がバカにしているように思えてきます。
思い浮かぶのは、都の妻子のことばかり。
幼馴染の妻の、優しい笑顔。

そののち、あちこちの戦いで次々と身内が亡くなります。
維盛はだんだん、精神状態が不安定になってきました。
そしてとうとう、夜陰に紛れて陣から逃亡してしまうのです。
これは、一門に対する最大の背信行為となってしまいました。

そんなとき、少年のころに使っていたもと召使に再会します。
滝口という少年は、いまや僧形になっていたのです。
維盛は滝口のもとで衝動的に出家してしまいます。彼の顔には、安堵の笑みがこぼれたことでしょう。
背中にのしかかっていた平家の嫡男の重圧から、やっと解放されたのです。

彼と数名の従者たちは、滝口とともに熊野へ向かいます。
そこで維盛は補陀落渡海(ふだらくとかい)をまねて、入水するのです。

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補陀落渡海とは、僧がある一定の年齢になったら、念仏を唱えながら箱に詰められ、海に流されることです。
維盛は手を合わせ念仏を唱え、心の中で都の妻子にわびました。

彼はいまや、幸せに満ちていました。
彼の入水を見届けた従者の一人が、その様を八島にいる一門の人々に報告したと言われます。



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腰抜けとか弱虫扱いされる維盛ですが、私は一概にそうだったとは思いません。
彼の中では彼なりの葛藤があったことでしょう。

宮廷で華やかさの中で育った彼ら、孫世代にとって、武士としての気骨を求められることは、
難儀であったことでしょう。

自分に合わない道を強いられるほど、つらいことはありません。
弟の資盛は活発で、風流なことも武芸もよくこなしたようですが、彼はどちらかといえば文化人だったようです。




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